桜咲くこの季節。
新たな高校生活の期待に満ちた一年生。キラキラとした顔で登校し、友達作りに励む毎日。
大学受験の年を迎え、新たに気を引き締めろと言われる三年生。新学期のテストが何点取れるのか暗雲をちらつかせる表情で登校してくる。
一方、二年に上がった私は理科室で授業を受けながら窓の外を眺めていた。代わり映えしないこの日常がまた一年続くのかと思うとついついため息が漏れてしまう。
顕微鏡をのぞきながら親友の月本由奈に愚痴る。
由奈は私の話なんて右から左。
私は机に突っ伏した。
そのまま顔を横へ向けると筆箱からシャーペンを取り出した。
左腕に顔を乗せ、右手でカチカチとシャーペンの音を鳴らしてはしまい、鳴らしてはしまい……相手をしてくれない由奈にガッカリした。
またそうつぶやくと、それをそのまま机に書く。
‘あ~つまんないの‘
ノートに書くのと机に書くのとではシャーペンのなめらかさが違う──
やわらかい何かで叩かれると私はあわてて起き上がる。
教壇の前にいたはずの先生はいつの間にか私の背後に回り込み、丸めた教科書を片手に私を見下ろしていた。
少しシュンとした顔を見せると榎本先生は隣のグループへと移った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。