第3話

〈1 落書き〉2
2,405
2018/12/17 05:11
月本由奈
月本由奈
ほら見なさいよ~。イケメン榎本に怒られた
佐倉理緒
佐倉理緒
もう! 由奈のいじわる!
そう、理科全般の分野を受け持つ教科担任の榎本要先生は無駄にイケメンなのだ。だから一部の女子に人気があるらしい。
(ま、私は教師と生徒の禁断ラブなんて求めてないからいいんだけど)
佐倉理緒
佐倉理緒
も~さ……合コンでもしよ!
月本由奈
月本由奈
あたしそういうのパス
由奈は私の誘いなど気にもとめず今度は顕微鏡をのぞいていた。
佐倉理緒
佐倉理緒
由奈ってば、つれない!
仕方なく私は実験の手伝いを始めた。
佐倉理緒
佐倉理緒
せっかくの高校生活、何もなく終わっちゃうよ~……。一年の時はスカート短くしたり、髪染めたり、女磨きしたのにさ
ブーたれて椅子をガタガタと揺らすと、由奈は顕微鏡から目を離し私に目をやりダルそうな顔で見た。
月本由奈
月本由奈
ねぇ理緒? 外見だけ変えてそれだけで寄ってくる男なんてろくなもんじゃないよ。あんたはそれより授業しっかり受けなさいよ
佐倉理緒
佐倉理緒
え~? だってさ~理科ってつまんなくない? そもそも化学で習った元素記号とか使う日なんて一生こないよ! すいへーりーべー……何だっけ?
榎本先生
榎本先生
‘ぼくのふね‘だろう?
榎本先生がまたやってきた。
榎本先生
榎本先生
新学期というより新学年早々赤点はやめてくれよ? 俺の信用問題に関わる
ため息を吐き、あきれた顔で私を見た。
佐倉理緒
佐倉理緒
あー! 先生が自分の保身の為に生徒の成績上げようとしてるなんてサイテー! 皆に言いふらしちゃお~
そう言って口から舌を半分出した。
榎本先生
榎本先生
お前は子どもか。しっかり実験の結果メモっとけよ。もうすぐ授業終わるぞ
まるで気にしていないかのようにサラッと流されムッとする。
佐倉理緒
佐倉理緒
ねぇ! 聞いた!? 今の! 子ども扱いだよ、子ども扱い! なんであんなのが人気なの? こっちからしたらオッサンだよね!?
由奈に向き直り同意を求めたが希望とは違う答えが返ってきた。
月本由奈
月本由奈
……理緒のそういうとこ、十分すぎるほど子どもだとあたしも思う
佐倉理緒
佐倉理緒
えー! 由奈のいじわる!
直後にチャイムが終業を知らせた。
榎本先生
榎本先生
はい! じゃあ各自速やかに片付けて。皆ノートにちゃんと記録したな?
その問いにそれぞれの返事が聞こえる中、私はハッとする。
佐倉理緒
佐倉理緒
由奈ちゅわ~ん!
月本由奈
月本由奈
やだ
佐倉理緒
佐倉理緒
まだ何も言ってないし!
月本由奈
月本由奈
言わなくても分かる。さ、教室戻ろー
さっさと理科室から出ようとする由奈をあわてて追いかけた。
佐倉理緒
佐倉理緒
由奈ってば! 待ってよ~!
机に落書きしたことなんてすっかり忘れ、消す間もなく理科室を後にした。
そして、その落書きはつまらなかった私の高校生活を青春ライフのど真ん中に立たせてくれたのだった。

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