私の母は、ある一点を除けばごくごく普通の母だった。
スーパーの特売品をチェックし、バラエティー番組にツッコミを入れまくる。ときどき理不尽で、口うるさい。そんなどこにでもいる普通の母は、倒れる前にこう言った。
果たしてそれは忠告か、それとも自分に対する戒めだったのか。
鬼気迫る様子に圧倒されて、私はただただ頷いた。母の言う、救っては駄目な存在が何かも分からず、そうしなければいけないという思いだけで母の教えを胸に刻んだ。
けれど母さん、私は今日、あなたに背きます。
顔にソバカスの浮いた十代の少女が、画面に向かって愛想よく手を振った。伸ばした語尾に媚びた演技、それまで誰にも注目されなかった悲しい少女。
果たしてどれだけの人間がこの動画を見ているだろう。しかし数など気にしていなかった。ひとりでもいい、私の決意を聞いてくれ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。