第7話

こんにちはぁ、ロコで〜す-2
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2018/09/20 02:36
朝子さんから中古のスマホをもらって、格安プランの契約をした。電話はかけ放題じゃないけど、ネットは月3Gで千六百円は悪くない。ちなみに友人が話題に出す3Gだの5Gだのは、通信量だと初めて知った。ずっと重力のことだと思ってた。

ネットにアクセスする手段を得た私は、さっそく"スパイダーウェブ"に登録することにした。"スパイダー"としての名前はどうしようか。
ヒロ、テレビゲームしてないで早くご飯食べなさい
小さな画面から顔を上げると、母が仁王立ちしていた。
清見ヒロ子
清見ヒロ子
いつ帰ってきたの
さっき。入院生活は飽きるわ
また勝手に抜け出してきたのか。ここに本物の自由奔放な大人がいる。私が知る限り、一番まともじゃないのがこの母親だ。
まったくもう、ピコピコピコピコ、ゲームばっかやって成績下がったらどうするの
清見ヒロ子
清見ヒロ子
いや、ゲームじゃないから。ピコピコしてないし
いいから食べる!
叱られて渋々立ち上がる。ラップのかかった皿を電子レンジに入れて、2分にセット。母はテーブルの上のスマホを覗き込み、不思議そうな顔をしていた。

夕飯を食べ終わると、登録作業を再開した。名前、名前……駄目だ思い浮かばん。こういうの苦手なんだよ。
清見ヒロ子
清見ヒロ子
ねー母さん、私の名前なにがいいと思う?
あんたの名前はヒロ子でしょ。昭和のアイドル、里ヒロミからとったのよ
清見ヒロ子
清見ヒロ子
いやそれ何回も言われてるけど誰か知らないし。じゃなくてね、んーと、ニックネーム? なにがいいかな
本名でやるわけにもいかない。ユータンだってそうだし、他の"スパイダー"だってほとんどがニックネームと分かる名前で活動している。
ロコちゃん
母が手を叩きながら言った。
ほら、小学校のとき。引っ越す前に同じアパートに住んでた子よ。あんたのこと"ロコちゃん"って呼んでた子がいたじゃない
ヒロ子だから、ロコちゃん。少し考えて、悪くないと思った。

さっそく入力するが、スマホってなんでこうも文字を打つのが難しいんだろう。右に左に指を動かさないといけなくて、ガラケーでさえ打つのが遅かった私には至難の技だ。

名前とプロフィール、顔写真はまた今度でいいか。必須項目をすべて埋めて送信、と。

くるくると輪が回る。画面が一瞬暗くなり、そして。


『スパイダーウェブへようこそ』

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