背後から両肩を掴まれ、思わず裏拳を繰り出していた。ぶっ、と聞こえて後ろを振り返ると、鼻を押さえた植草がいた。
相棒の木和田がフォローしてくれた。最近思うのだが、木和田とは仲良くなれそうな気がする。
植草は先入観からか、私がわざと裏拳を放ったとは思っていないようだった。バカだなー女子に幻想を抱いちゃって。
小さく首を傾げると、植草はデレッとした表情を浮かべた。ちょろいな、こいつ。ちょろ草だな。
黒騎士の下りで宇野はおかしくなったが、人気"スパイダー"について知れたのは有意義であった。
ついに来たか。芙美と奈々香二人には教えたが、こいつには、いや他の誰にも教えたくはなかった。どうせ毎日毎時間、腹の足しにもならない話題を振ってくるに違いない。
芙美と奈々香の名前を出されては断りにくい。スマホを買ったこと、内緒にしておけばよかった。ガラケーなら簡単に断れるのに。
結局、植草と木和田、そしていたのにずっと喋らなかった大神とIDを交換した。IDの横に表示される画像に自分のキメ顔を使っているところが植草らしい。木和田はデフォルトのまま。好感度が上がるしかない。
植草は目の前にいるというのにメッセージを送ってきた。「ヨロ☆」だって。口で言えよ。
慣れない操作でゆっくりと返事をしていると、違うIDからの受信のサイン。視線を上げると、大神はすでに自分の席に戻っていた。こっちなんか向いていない。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。