ドクンドクン
心臓の音がする...
この心臓の音は誰の音...?
私?咲田?
ガタン!
私たちは今、学校の掃除用具箱に入っている。
何でかって...?
それはもちろん、隠れんぼだから。
でも、掃除用具箱に二人で隠れるのは少し
きつかったみたい。
私がそう質問すると、咲田は
と言って、自分の人差し指を私の唇にあてた。
私は小声で『ご、ごめん...。』と謝る。
『ウガァァァァァァァァァ!』
鬼の声...
来たんだ。鬼が。
私は、息をひそめる。
お願い...
見つからないで...
フラッ
私は、体勢を崩した。
そこで、あることに気付く。
私は、ここ3日間、睡眠を取っていない。
3日間ずっと、寝ないで逃げ回っていた。
だから、体勢を崩した。
けど、こんなときに限って...
ドン!
掃除用具箱の扉に衝突する。
どうしよう。
気付かれる...
どうしよう。どうしよう。どうしよう...
このままじゃ...
見つかる...
ギギギ
掃除用具箱の扉が開き始める...
どうしよう。見つかる。怖い。
嫌だ。
ここまで来て、死ぬなんて、
ゲームオーバーなんて、絶対に...
嫌だ。
突然、咲田が私の手を握った。
今度は痛くない。
凄く、凄く、優しい。
ギギギ
扉が、完全に開いた。
『ウガァァァァァァァァァ!』
もう、終わりだ。
私は、ゲームオーバー。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!