第32話

願いが分からない少女 〜3〜
399
2020/02/23 12:48
私に願いなんてあるのか?
天使に考えろと言われ、考えるものの願いはまだ見つかっていない。
友達が出来たから思い残すことはない。
私の余命付きの病気だってそういう運命。
その運命を曲げて、生きようとは思わない。
運命に身を任せるのが一番だ。
そんなことを考えながら、ふとリクトの方に視線を移す。
リクトも少し難しそうな顔をして何か考え事をしている。…だけど、何処か悲しそうな顔をしているようにも見えた。
月野 トウカ
…なぁ、リクト。
如月 リクト
どうした?
月野 トウカ
今日は午前授業だろ?だから、
放課後、ここ行きたい。
私はスマホに夕日が綺麗に見えると有名な崖の写真を表示させ、リクトに見せた。
如月 リクト
は?今日?
月野 トウカ
今日。
如月 リクト
土日とかじゃ駄目なのか?
月野 トウカ
今日。
凄い困惑の表情を浮かべるリクトを見る。
すると、リクトは諦めたように小さくため息をつくと…
如月 リクト
…説得したところで駄目だな。
分かった、いいぞ。行こう。
月野 トウカ
本当か!?ありがと!!
思わず、嬉しさにそう言うと私は笑う。
リクトは私を見て、少しだけ不思議そうな顔をすると、「どういたしまして。」と言って笑った。
リクトの笑顔は何か新鮮で面白かった。
放課後、電車に乗り、2人で崖へ。
着く頃には夕方で夕日が海に落ちようとしていた。
月野 トウカ
おぉ、綺麗だ。
如月 リクト
ああ…そうだな。
月野 トウカ
暗いけどどうした?
如月 リクト
遠かったから疲れたんだよ…。
まだこれから帰るし……。
月野 トウカ
まぁ、たまにはいいだろう?
ここは私が死ぬまでに1度でいいから、訪れてみたかった場所だった。
最期まで人生を楽しみたい。
余生を謳歌するのが私の目的だった。
如月 リクト
…あくまで"たまに"だけど。
月野 トウカ
ああ、"たまに"でいい。
その"たまに"が私にとっての思い出となる。
リクトにはたった1日でも、私には大事な1日となる。
月野 トウカ
…リクト、ありがとう。
如月 リクト
い、いきなりどうした?トウカ
らしくないな。
月野 トウカ
日頃からのお礼さ。
せめて隠して、そっと死のう。
私はそう決めると、少し笑う。
リクトは怪訝そうな顔で私を見たが、スグに「そっか。」と言い、微笑んだ。
月野 トウカ
じゃ、帰ろうか。
沢山写真を撮って、私達は電車に乗る。
夕日を見たその日は私にとっての最高の一日となってとても嬉しかった……。

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