翌日、僕は少し不安になりながら学校へ。
これでもし、またいじめられたら…
僕が大損したことになるよね…
教室へと1歩踏み出す。
すると…
僕には何も聞こえていない。しかし、
「お、ユウ。はよー」「藤堂君、おはよ〜」
という文字が見えた。
いつもくらいの声の大きさで言い、自分の席
へと向かう。
僕の席まで行くには桃井の席の前を通らない
といけない。
少しビクビクしながら通ろうとすると、桃井
と目が合ってしまった。
僕の目の前に文字が浮かび名前を呼ばれた。
桃井は僕が敬語だったことに驚いたようだ。
今思えば、桃井から僕に初めて挨拶をされた
かもしれない。
あぁ、僕の世界は変わり始めているんだ。
神様は僕を見捨てても、あの子達は…天使と
死神は僕のことを見捨てなかったんだ。
そう思うと、心が軽くなった。
耳は聞こえないけど、僕にはみんなが言って
いることが文字として見える。
これなら何とか生活が出来そう…
聴覚を失うからみんなが何を話しているのか
が分からないと思ったけど…天使のあの子は
優しいなぁ…
耳が聞こえなくなって初めての休み時間。
「藤堂君!」
好きなボカロ雑誌を読んでいた時に目の前に
見えた僕の名字。
横を向くと、同じクラスの平坂さんが立って
いた。
平坂さんは楽しそうに話している。
僕の中で平坂さんは運動命でこういう方には
興味が無いという印象が強かった。
確かに何故かボカロ好きはオタクとか言う人
がいる。何で好きなものを見たり読むだけで
オタクと言われるのかが僕は理解出来ない。
僕に友達なんか出来たことがない。
「友達になろう」なんて初めて言われた…
首を傾げながら平坂さんが僕を見る。
僕の聴覚と引き換えに手に入れた、いじめの
ない学校生活。
今までいなかった友達も出来て、嬉しい。
耳は聞こえなくても話すことが目に見えたら
それだけいいと思った。
昼休みになると、平坂さんが一緒に昼ご飯を
食べようと言いに来てくれた。
一緒に食べながらボカロの話をしたりして、
僕は今までに体験したことがない楽しさを
感じることが出来たのだった…
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。