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第1話

たちの悪い横恋慕
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2018/11/09 08:04
私の携帯がバイブで震えた。
確認すると、表示された名前は私の彼氏。
付き合い始めて1ヶ月。
このごろ毎晩電話がくる。
クラスが違って毎日は話せないから、すごく嬉しい。
今夜も彼の声で、私は眠りについた。


次の日。

「凛、今夜電話してもいい?」

昼休みに彼とお弁当を食べていると、彼にそう聞かれた。

「いいけど…毎晩普通にかけてくるじゃない。
どうしたの?急に許可なんかとって」

私がそう聞くと、彼の瞳孔は徐々に開いて、彼の白い肌がさらに青ざめる。

「…それ、俺じゃない」

彼の揺れる瞳とその様子から、冗談なんかじゃないことはすぐにわかった。

「え、でも、確かに淳くんの声、だし…」

青ざめたまま固まっている彼に、私の声は少しずつ小さくなっていく。
背中に氷水を浴びせられたような感覚がした。
私の指先が、小刻みに震える。
と、その手に暖かくて大きな彼の手が重なった。

「…今日、凛の家行っていい?」



「いつも何時ごろにかかってくるの?」

幸か不幸か、私は一人暮らしなので淳くんに家に来てもらった。

「えっと…九時過ぎ、かな」

そう言った途端、着信音が鳴り響く。
徐々に体の震えを感じる。
淳くんの方を見ると、すかさずスピーカーフォンにして、私のスマホを床に置いた。

「も、もしもし?」

私はできるだけ自然に受け答えをしようと試みる。

『…もうバレちゃったか。』

その一言に、向こうは淳くんの存在を知っていると確信する。
淳くんは相手に言った。

「お前は誰だ」
『ふ、あははっ……残念だったねぇ。淳君』

ブツッ

音を立てて、通話が切れた。
膝の上に乗せた拳に、力が入らない。
息が上手く吸えなくて、喉がヒューヒューと音を立てる。

「っ、凛」

私の様子に気づいて、淳くんは私を抱き締めてくれた。
この、この温もりが。
この温もりすらも疑ってしまう自分に、酷く嫌気がさした。






何日も、何日も何日も。
毎晩鳴り響く着信音が恐ろしい。
淳くんは固定電話にかけてくれるから、区別がつかない訳じゃない。
それが唯一の救いだった。

落ち着くためにと淹れたココアに手を伸ばしたその瞬間、呼び鈴が鳴った。

ゴト、と鈍い音を立ててマグカップが床に落ち、白い絨毯に染みをつくる。
恐る恐る覗き穴から外を見ると、そこにいたのは淳くん。
ほっとしてドアを開けようとすると、またスマホの着信音が響いた。
飛び上がって慌ててドアを開け、そこにいた淳くんに抱きついた。

「もう大丈夫だよ」

そう言った彼に、着信音の止まない携帯を見せると。
今度は固定電話が鳴り始めた。

「えっ…!?」

どうしよう、淳くんと彼の腕を掴むと、その手に握られたスマホに気づく。
そこに表示されていたのは、私のスマホとの通話画面。

そこで、初めて気がついた。
君の、その目の下のほくろは。
左側にあったよね?

「あ」
私が凝視するほくろに、彼は自分の指で触れる。
「間違っちゃった」

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