その日の放課後、美術室。
芽衣と佐々木に昨日の出来事を話すと、よほど驚いたのか二人は同時に叫んで目を丸くした。
周りで作業をしている他の生徒達にじろりとにらまれて、私達は慌てて小声になる。
本来なら喜ぶべきことなのに、朝からずっと頭を抱えて悶絶している私を見て不思議に思ったのか、芽衣は小さく首を傾げた。
私は頰杖をつきながら、ハァッとため息をつく。
「…………え」
二人は同時に動きを止め、眉をひそめた。
昨日のことを思い出しながら、私は順を追って二人に彼と再会してからの一連の出来事を説明した。
話を聞き終えた芽衣が、困惑したように呟く。
その横で佐々木が何かに思い当たったように『あ……』と声を上げた。
あごをつまんで話す佐々木の口元を見つめながら、私は再び彼のあのキレイな手を脳裏に思い浮かべていた。
彼が本当にそのウワサの人なら……私と同じように何らかの美術活動をしてた……って、こと?
しかも中等科から通うくらいの実力があったなんて……。
(え……。ちょっと待って。中等科から?)
頭の中で、何かがチカッと光った気がした。
ガタッと椅子を蹴るようにして立ち上がる。
二人がびっくりしたように私を見上げたのにも構わず、私はそのまま資料棚へと駆け出した。
(もしかして……もしかして……)
美術展関連の資料が並んでいる棚の前に立ち、私は深く息を吐く。
逸る気持ちが指を震えさせ、私は一度ぐっと拳を握りしめた。
(あった……!)
昨年度の中学校美術展のパンフレットを見つけて、私は急いでそれを棚から引き抜いた。
パラパラとページをめくって、受賞者一覧が載っている個所を探す。
そうして金賞を受賞した綾城中等科のページに行き当たった私は、大きく目を見開いた。
《楠瀬 晴》
受賞者である3年生一同の一覧の中に。
堂々とトップを飾って、その名前は記されていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。