前の話
一覧へ
次の話

第1話

向かいの家はなんでも屋
94
2019/05/12 11:24
昨日ここ香山町に引っ越してきた笹川波留、16歳の高校2年生は丁度部屋の整理が終わったところだ。

この街は漁業が有名、それだけだと父から聞かされていたが元々住んでいた渋谷より何百倍も空気が美味しいと感じた。しかし虫が沢山いるのは心外だった。
新しい友達を作るのにも一苦労かかりそうで先が思いやられるが持ち前の明るさでどうにかなるだろうと適当な事を抜かしながら波留は何もせずぼーーーっ、としていた。

ぼーっとするのが飽きてしまったので窓から景色を見るらことにしたが見えるのは田んぼや畑ばかりでこれもすぐに飽きてしまった。
だが1つ目に止まるものがある。止まるもなにも向かいの家だ。決して外見が豪勢とかではない。屋根にでかでかと『なんでも屋』という看板が取り付けられており如何にも怪しい雰囲気を醸し出している...のだ。
この向かいの家以外には特に変わった風景は無く、平凡な田舎とでも言えばいいだろうか。
学校までは片道徒歩で15分と割と早く着けるようで安心だ。前の学校では友人は沢山いたものの、バスと電車を使い片道40分とかなりの長旅で登校だけで疲れてしまっていた。
友人からはやくも届いた手紙には
「元気にしてる?
波留の事だからすぐにクラスの子と打ち解けられるだろうけど、疲れたら息抜きにまた逢いにきてね!
タピオカミルクティー飲もうね!」
と、引っ越すまでの私の夢だったタピオカミルクティーの話題を書いた友人は今、一流大学に入るため受験勉強に打ち込んでいると母から聞いていた。


両親の手続きが終わるといよいよ波留が1番苦手な時間である“ご挨拶”に行かなければならない。
笹川家では娘である波留も一緒に近所に挨拶に行くという決まりになっている。過去5回引っ越しを経験している波留にとっては面倒くさい以外の何者でもなかった。
母
波留〜!挨拶に行くわよ〜!
一階から母の大きく、よく通る声が聞こえてくる。はーいと間の抜けた返事をし、波留は軽く身支度をした。早く来なさいという母の声が聞こえるので急いで下に掛け降りた。








だろうとは波留も勘付いていたが、早速さっき波留が見ていた変な看板の家の前に来た。看板があるからひょっとしたら店なのかもしれない。


『なんでも屋』


波留はこの何の変哲も無い、言ってしまえばナンセンスな看板の文字に心なしか惹かれたような気がしてならなかった。


ピンポーン♪
母がインターホンを鳴らす。




これが波留と彼らの出会いだった。

プリ小説オーディオドラマ