風馬の剣幕に、美鳥は驚いて後ずさりした。
明らかに、彼は美鳥目がけて近づいてきているのだ。
風馬はいつも寡黙で無表情。
がっちりとした体格に黒の短髪、右耳についた大きいシルバーピアスが印象的だが――厳ついし、恐い。
それに、元・柔道部のエースだ。
まるで睦月の用心棒のようで、誰からも恐れられている。
美鳥は全身から血の気が引いていくのを感じつつも、風馬から目をそらせずにいた。
そしてついに、風馬が美鳥の直前で立ち止まる。
腹に響くような低い声で風馬に話しかけられ、美鳥は肩を跳ねさせる。
そのまま恐怖に耐えきれず、膝から崩れ落ち――気絶してしまった。
***
美鳥が目を覚ますと、ふかふかの布団の中にいた。
周囲にカーテンがあるのを見ると、どうやらここは保健室のベッドらしい。
失神する前のことを思い出しながら、美鳥が上体を起こすと、足音がした。
女性の養護教諭が隙間から顔を出し、にこりとしたかと思いきや、カーテンを開けていった。
そこにいたのは彼女だけではなく――風馬と睦月が、きまりの悪そうな様子で立っている。
美鳥は彼らを前にして、緊張と嬉しさで混乱し、硬直していた。
訳も分からないまま、逃げるように視線を動かして時計を確認すると、まだ昼休み中だ。
先に風馬が沈黙を破って腰を折り、次いで睦月も同じように謝った。
頭を下げる姿勢が、2人ともそっくりだ。
しどろもどろになりながら、美鳥も謝る。
3人の会話を聞いていた養護教諭は、くすくすと笑ってその場から離れていった。
――完璧にバレている。
いや、いつも睦月を目で追っていたら、気付かれない方がおかしい。
風馬は気を遣って話しかけてくれたというのに、怖がって気絶するなんて、なんという失態か。
憧れの人を目の前にしてうまく話せない美鳥だが、2人の穏やかな態度に触れて、次第に落ち着いてきた。
睦月も美鳥の行動を気にしている訳ではなさそうだ。
困り顔の風馬と微笑んでいる睦月をよく見比べてみると、目と鼻と口、それぞれのパーツが酷似している。
それはもう、他人とは思えないほどに。
2人は雰囲気が違うし、今まで睦月ばかり見ていて分からなかった。
美鳥は自然と、そう口に出していた。
【第3話につづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。