「見たよー、由木くんとのラブラブ登校!」
一時間目
体育の授業でグラウンドに向かう途中、ナナがニヤニヤしながら話しかけてきた。
「え!? 声かけてくれたらよかったのに」
「ムリムリ。とてもじゃないけど、入っていけない空気感だったよー。ね?」
ナナに尋ねられた神崎さんが「うん」と即答する。
夢みたいな話だが、夢じゃない……と。
1日に何度も確認してしまうくらいには、未だに夢心地である。
だってだって。
好きな人ができるだけでも、奇跡みたいなものなのに。
その相手も、自分が好きなんて……。
(こんなに幸せでいいの?)
「なんかさー。色々いう人もいるみたいだけど」
ナナのいう『色々いう人』とは、主にネットにわたしのことを書き込む人たちのことだろう。
実際にこの目で確認したわけじゃないけれど(ユキくんから見るなと言われた)、イオリくんの話だと悪口が飛び交っているらしい……。
それがどんな悪口かという内容まで教えてこなかったのは、きっとイオリくんなりに、わたしを気遣ってくれていたんじゃないかなと。
口は悪いけれど、やっぱりいい人だ。
「気にしなくないいんだからね!」
「そうそう。堂々としてればいいよ」
たとえ世界中の女の子から嫌われても、2人が味方でいてくれると、それで救われる。
「……ありがとう」
友達になれて、よかった。
***
授業のあと、掃除してると携帯にメッセージが入った。
なんだろう。
文化祭の準備的な……?
掃除用具を片付けると、教室に戻らずに美術室に向かった。
扉は閉まっている。
開けていいのかなと迷っていると――。
「すずー!」
やってきたのは、ナナだった。
「ナナも呼ばれたの?」
「うん。こっちだよ!」
「え?」
ふたつ隣の部屋に移動する。
「資料室って、書いてあるけど」
「こっちに来てほしいんだってさ」
――ガラッ
扉の向こうは、まっくらだ。
なんだか薄気味悪い……。
「本当に、ここ?」
――ドン
背中を押され、中に倒れ込む。
「……っ、ナナ?」
そのとき、目の前が、真っ暗になった。
背後から目隠しをされたのだ。
「なんの冗談……んんっ」
声を出せなくなる。
布かなにかを噛まされているの?
さらに、手足に、なにかを巻かれ。
かたくて、細くて、食い込んでくる。
(痛いっ……)
これは……結束バンド……?
「チョーシ乗ってるアンタが悪いんだよ」
(え?)
「しばらく反省してな」
(今の、声……)
「いいザマ」
「写真とろっか」
そこにいるのは、ナナと、神崎さん……。
なんで?
友達……なのに。
「やっぱり味方のフリして近づく作戦で大正解だったね!」
「言ったでしょ。バカを騙すのなんて簡単だって」
(そんな)
「いい思い、したんでしょ。だったら次は罰を受ける番だよね」
「先生には早退したって伝えておくよ。暴れても無駄だよ。ここは人気ないから。美術部も今日は活動しないし」
「週明けには迎えにくるから。まったねー」
(待って……!)
「あー、でも。熱中症とか。……大丈夫かな」
「なに怖気づいてるの。痛い目みせたいって言ったのはナナでしょ」
「それはそうなんだけど」
「死にやしないよ」
「そうだよね。抜け駆けしたコイツが、悪いよね」
もしかして、ナナたちは、ユキくんが好きだったんだろうか。
それでこんなことするの?
ガラッと扉の閉まる音と、カチャリと鍵の閉まる音がした。
もう、ダメだ。
……ここからわたしは逃げられない。
(たすけて、)
ユキくん。たすけて。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。