第15話

罠〈ワナ〉
990
2019/01/02 12:40
「見たよー、由木くんとのラブラブ登校!」


一時間目

体育の授業でグラウンドに向かう途中、ナナがニヤニヤしながら話しかけてきた。


「え!? 声かけてくれたらよかったのに」
「ムリムリ。とてもじゃないけど、入っていけない空気感だったよー。ね?」


ナナに尋ねられた神崎さんが「うん」と即答する。


夢みたいな話だが、夢じゃない……と。

1日に何度も確認してしまうくらいには、未だに夢心地である。


だってだって。

好きな人ができるだけでも、奇跡みたいなものなのに。


その相手も、自分が好きなんて……。

 
(こんなに幸せでいいの?)


「なんかさー。色々いう人もいるみたいだけど」


ナナのいう『色々いう人』とは、主にネットにわたしのことを書き込む人たちのことだろう。


実際にこの目で確認したわけじゃないけれど(ユキくんから見るなと言われた)、イオリくんの話だと悪口が飛び交っているらしい……。


それがどんな悪口かという内容まで教えてこなかったのは、きっとイオリくんなりに、わたしを気遣ってくれていたんじゃないかなと。


口は悪いけれど、やっぱりいい人だ。


「気にしなくないいんだからね!」
「そうそう。堂々としてればいいよ」


たとえ世界中の女の子から嫌われても、2人が味方でいてくれると、それで救われる。


「……ありがとう」


友達になれて、よかった。



 ***



授業のあと、掃除してると携帯にメッセージが入った。
神崎
ちょっと美術室に来れないかな
神崎
人手が足りなくて
なんだろう。

文化祭の準備的な……?
すず
掃除終わったらすぐに行くね!
神崎
助かる
掃除用具を片付けると、教室に戻らずに美術室に向かった。


扉は閉まっている。

開けていいのかなと迷っていると――。


「すずー!」


やってきたのは、ナナだった。


「ナナも呼ばれたの?」
「うん。こっちだよ!」
「え?」


ふたつ隣の部屋に移動する。


「資料室って、書いてあるけど」
「こっちに来てほしいんだってさ」


――ガラッ


扉の向こうは、まっくらだ。

なんだか薄気味悪い……。


「本当に、ここ?」


――ドン


背中を押され、中に倒れ込む。


「……っ、ナナ?」


そのとき、目の前が、真っ暗になった。


背後から目隠しをされたのだ。


「なんの冗談……んんっ」


声を出せなくなる。


布かなにかを噛まされているの?


さらに、手足に、なにかを巻かれ。


かたくて、細くて、食い込んでくる。


(痛いっ……)


これは……結束バンド……?


「チョーシ乗ってるアンタが悪いんだよ」


(え?)


「しばらく反省してな」


(今の、声……)


「いいザマ」
「写真とろっか」


そこにいるのは、ナナと、神崎さん……。


なんで?

友達……なのに。


「やっぱり味方のフリして近づく作戦で大正解だったね!」
「言ったでしょ。バカを騙すのなんて簡単だって」


(そんな)


「いい思い、したんでしょ。だったら次は罰を受ける番だよね」
「先生には早退したって伝えておくよ。暴れても無駄だよ。ここは人気ひとけないから。美術部も今日は活動しないし」
「週明けには迎えにくるから。まったねー」


(待って……!)


「あー、でも。熱中症とか。……大丈夫かな」
「なに怖気づいてるの。痛い目みせたいって言ったのはナナでしょ」
「それはそうなんだけど」
「死にやしないよ」
「そうだよね。抜け駆けしたコイツが、悪いよね」


もしかして、ナナたちは、ユキくんが好きだったんだろうか。

それでこんなことするの?


ガラッと扉の閉まる音と、カチャリと鍵の閉まる音がした。


もう、ダメだ。


……ここからわたしは逃げられない。


(たすけて、)


ユキくん。たすけて。

プリ小説オーディオドラマ