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ピッピッピッピッピッピッ…………
“先生!心拍数が正常に戻りました”
バタバタバタ……と誰かが駆けていく音。
定期的に繰り返される電子音。
私、死んじゃったんじゃなかったの………?
「凛花!」
うっすら目を開けると。
優菜が涙目で私を覗き込んでいた。
「良かった……目が覚めて」
「ここ、どこ……」
「海岸の近くの救急病院。すごかったんだよ、圭太が……圭太が凛花を助けてくれたの」
優菜の瞳から、大粒の涙が溢れる。
「凛花が死んじゃったらどうしようって……ほんとに怖かった…」
「優菜……」
「助かって良かった…」
ベッドに寝かされていて。何だか私はまだ、よく分からない“キカイ”や“線”に繋がれているみたい。
「今、皆を呼んで来る」
優菜が涙を拭って、向こうに歩いて行った。
入れ違いに圭太が入って来るーーーーーーーーーーーーーー
「よっ」
「よって……」
「良かった、の“よ”」
「こんな時にふざけてる場合じゃーーーー」
と言おうとしたら、抱き締められた。
「良かった。凛花が無事で」
寝たままの体制は崩さない様にしてくれてるけど、とんでもなくその力が強くて。
「生きてて良かった」
抱き締められたまま、圭太の表情は見えなかったけれど。
圭太の頬を伝って落ちた涙が、私の肌を濡らした。
“生きててよかった”―――――――――――――――
その言葉の重みを噛み締めながら、私を抱き締める圭太の頭を何故かそっと私は撫でていた。涙が、堰を切ったみたいに溢れて。
まだ、生きてるんだ。私。
まだ、みんなと一緒に笑って暮らせるんだ。
私は人間だから。平和な時代だから。
“殺されなくて、良かった。”
それは、途方も無いアイロニーな気もするけれど。
圭太の温かい腕。私を助けてくれた、その腕に抱かれながら。
ただただ今生きている奇跡と、助けられたことにどうしようもなく嬉しくてときめきを感じていることと。
“命”って何なんだろう……って呆然とぐるぐるぼんやりした思いが頭の中を巡って。
「圭太、ちょっと痛いよ」
「ご、ゴメン」
圭太が離れたところで、皆がどやどや先生や看護師さんと一緒に入って来たーーーーーーー
「っていうか、見てた?」
「まぁ……途中から」
祥三が鼻をポリポリしながら、バツが悪そうに答える。
「お前達、いつの間にそんな仲になってたんだよ……いや、でもマジ凛花、良かった……俺、このまま目が覚めなかったらどうしようって。」
そこまで言って、祥三が頭を急に下げた。
「俺、何かあの時凛花を傷付ける様なこと言っちまったから」
声を震わせて。
「何かあったら。俺の一言のせいで凛花があっちに行ったのかもしれないとか思うと、やりきれなくて……ほんと、ゴメン………」
祥三の言葉に、肯定も否定も出来ないまま……私は。
「良いよ、祥三、そんな……」
と言うだけで精いっぱいで。
「そろそろ、様子を見させて貰っても良いかな」
お医者さんの先生の一言。
静かになる空間。
「じゃあ私達、また待合室で待ってるね」
優菜がそう言うと、祥三も隣に居た司朗さんも、ぺこりと頭を下げて一礼して部屋を出て行った。
「キミは、まだここに居るか」
まだ私の手を掴んだままの圭太の様子を見て、先生はそう漏らした。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!