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順番に、並んでいた。
牛が、狭い柵の中をとぼとぼと歩く。
やつれたその瞳に、光は無い。
長い睫毛はまるで、これから訪れる未来を予測しているかの様に下を向いて。
順番に、歩いて行く。
その先に、鉄砲を持った人が居る。
順番に撃たれた牛は気絶して。涙を流して。
私はその先を直視することが出来ない。
何故なら牛は、血まみれになって……“刃物”で殺されていたからーーーーーーーーーーーーーーーーー
「凛花!」
私は、何が起こったのか分からなくて。
ただただ前を向いて、お箸を握りしめていた。
「おい凛花、どうしたんだよ」
圭太が、私の向かいで眉毛をへの字にしてこっちを訝し気に見てる。
「ちょっと……その、、」
私は、今の状況を何て説明したら良いのか。
全然分からなかった。
「気分、悪くて」
そう、言葉を絞り出すのがせいいっぱい。
優菜が店内を見回して、
「空いてる席、あるよっ?店員さんに言って、あっちでちょっと休めないかな……」
と私の顔を心配そうな表情で見つめた。
「うん、ちょっとだけ、横にならせて貰っても……いいかな」
急に“お肉”が“動物の死体の肉片”に見えて仕方なくなって。
言い様の無い妙な“気持ち”になっちゃって。
店員さんに声をかえて、空いてる席に横にならせて貰うことにした。
だけど、目を閉じても。
何故かまた、風景が私を苛んだ。
殺された牛は、いつの間にか“解体”されていた。
宙に吊られて、何処かの工場の中を流されていく。
首を落とされて。皮を剥がれて。
気が付いた時には、大きな“肉の塊”に変わっていたーーーーーーーーーー
(これがお肉……)
私は、急に気持ち悪くなって、トイレに駆け込んだ。
さっき山ほど食べた、沢山の“肉塊”が口から吐き出されていったーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。