第11話

#9 うしのこえ
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2019/02/14 12:58





ごうん、ごうん、ごうん……



あ。



またあの怖い風景だ。



殺された牛の大きな“肉塊”が、工場のラインを流れていく。

大きな肉体は、工場の中の従業員の手によってどんどんカットされていく。





(良かった。それでも、殺される風景じゃなくて)



そっと胸を撫で下ろす。



突然、場面は変わって。



自分の部屋に私は居た。



「ありがとう」



聞き覚えの無い声がして、もう一度部屋を見回すと何故か大きな“牛”が目の前に現れていた。



「ありがとう?」



何故か、牛が話せることに私は疑問を感じない。



「うん。キミみたいなヒトがもっと増えたら、僕たちの仲間はもう殺されなくて済むんだ……」



そよ風みたいな、静かな声だった。



「僕達も、君の飼っているミーちゃんとおんなじ、“動物”だから。殺されるのはつらい」



そのまま、白黒のまだら模様の毛並みを揺らしながら。



「いつか、僕達もお肉にならないで暮らしたい」



―――――――――――――――僕たちは、繋がれている。無理やりミルクを出されるために、妊娠させられる。狭い所から、出られないまま寿命を待たずして殺される。



「牛に生まれたくなかった。こんな世界だったら」





大きな瞳が、私をただ見つめていた。



「いつの日か、“牛に生まれて良かった”って言える日が来てほしいんだ」









「そのために、僕たちは人間にテレパシーを送ることにしたんだ」



(てれぱしー……)



「牛だけじゃないよ。豚も、鶏も。既に送り始めてる……君が“視た”のは僕たち牛のテレパシーだったけど」



(とても怖かったの……悲しかった)



「それがキミが視た風景だよ。ボクたちの仲間が受けた仕打ち」



(でも、視たのって私だけじゃ、ないの)



「個人差が、ある」



(個人差………)



「キミみたいな動物好きは、僕たちのテレパシーを受信しやすいみたいだ」









「そのうち、僕たちを食べることをやめる人が、もっと出ることを僕たち自身が祈っている」









「ありがとう」





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