――最初は、君なんてどうでもよかった。
ーーーーー
「新しいシェアメイト?」
僕はスマホから顔を上げ、右斜め前を見て聞き返す。
そこにある横長のソファには叶と優くんが座っていて、僕の質問には優くんが答えてくれた。
「そうだ。名前は佐藤遙悠。書類あるけど、見るか?」
「置いといて」
見る気などさらさらなかったが、形だけそう言って僕は再びスマホをいじり始めた。
僕が座っている一人掛けのものと優くんたちが座っているもの、そして僕の向かいにある一人掛けのもの、計三つのソファで囲むようにしてある長方形のテーブルに、一枚の紙が置かれるのを視界の端に捉える。
優くんは恐らく、僕が新しいシェアメイトに興味を持っていないことを察している。それでも何も言わずに置いてくれる。
優しい、と思う。
このシェアハウスでは、リビングにはいつも誰かがいて、会話がなくても空気は穏やかで、すごく居心地がいい。
だから僕は結構、今のメンバーでのシェアハウスを気に入っている。
なのに新しいシェアメイトって……どんな男か知らないけど、ちゃんとした人でありますように。
じゃなかったら追い出す。
いよいよ新しいシェアメイトが来る日。ほぼ約束の時間にチャイムが鳴って、僕は玄関へ駆けた。
もしダメそうな奴だったら、僕らの生活を邪魔しないよう言うつもりで。
ところがやって来たのは、
「……よ、よろしくお願い……します?」
特に褒めるところもない普通の女の子だった。
――最っ悪。男でもないとか。
なんで女なんか……俺らの中の誰か好きになられたらどうすんだよ。何考えてんだ優。
……まぁあいつのことだから、何も考えてねぇんだろうな。困ってる奴はどんな奴でも必ず助ける、あいつなら。
ったく、しょうがねぇ……。
「鈴原理央だよ!さっきはゴメンね、ハルチカちゃん。よろしくね!」
俺に惚れさせて、今の生活が崩れねぇようにこの女をコントロールするか。
……と、思ってたのに。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。