それから理央くんが「裏」になることはなかったので、結局並び方は変えず、雑談しながら高校に着いた。
すると、心なしか周りの生徒たちがざわつき、いろんな角度から視線を感じた。
「……なんか見られてない?私たち」
「べっつにー?いつも通りじゃない?」
「そっか……」
藍たちも特に不思議に思ってないみたいだし、私の気のせい、か。
校舎に入ったところで、学年が違う藍・理央くんと手を振って別れた。
「ハルチカ。この学校の誰にもシェアハウスのことは言うなよ」
叶が急に釘を刺してきた。
怪訝に思ったが、拒否する理由もないので「うん」と言う。
叶と一緒に教室に行くと、なぜかクラスメイトたちにざわつかれた。
「……やっぱなんか注目されてない?何かしたの?叶」
「俺じゃねぇよ。――まぁそのうち分かる」
「は……?」
「ねぇ、佐藤さん」
席に着くと同時、女子の声に呼ばれた。
あっという間に怖そうな女子集団に取り囲まれる私。
え……?何?誰?この人たち。
「今朝、理央くんと一緒に登校してたよね。どういう関係?」
「……えっと、理央くんとはシェ……」
言いかけて、叶の言葉を思い出した。
『この学校の誰にもシェアハウスのことは――』
「……いや、その……友達、です。ただの」
「友達?どういう?」
「えっ?」
「どこまでやったの?教えてよ」
「どこまで……?え……?」
相手の気迫に押されて視線を泳がせまくっていたら、この女子たちの足元に目がいった。
上履きの色が違う……!てことは上級生!?うわ余計に怖くなってきた!!
言ってることも意味わかんないし、どうしたらいいの……!?
「大丈夫ですよ先輩」
背後から叶の声がした。
「そいつ、俺の彼女ですから」
――は!?と叫ぶ直前、後ろを振り向いた私の口を叶の手に覆われた。
その間にも叶は笑顔で女子集団に話している。
「理央と関係なんか持ってないですよ。俺が理央と仲良いから、それで話してただけです。こいつ俺にベタ惚れですし、理央を誘惑するとか絶対ないんで。安心してください」
私が叶にベタ惚れだとか大分頭がおかしいことを言っているようだが、さすがにここまで聞けば分かった。
周囲の先輩方を見回して思う。
理央くん、この人たち全員と遊んでるんだな……。女癖悪すぎでしょ本当……。
「……ならいいけど」
さっきから唯一喋っている美人の先輩が言った。この人がトップなんだろう。
ニコッと先輩へ笑った叶が私の口から手を離す。
よかったー、助かりそう……。
「佐藤さん」
不意打ち。私はビクッとなってから、トップの先輩を見上げた。
「はい」
「――友達の彼女って立場利用して、理央くん独占なんかしたら、許さないから」
温度のない目で凄みをきかせ、その先輩を筆頭に女子集団は去っていった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!