ぞろぞろとみんなでリビングに入る。
「とりあえず家ん中一通り案内するな。ハルチカ、ついてこい」
キャリーバッグを持ってくれている戸上さんが、私を振り向いて言った。
まだショックが抜け切らない私は、小さな声で返答をした。
「……ありがとうございます、戸上さん」
「ええ!?」
「えっ?」
急な大音量にビクッと肩が震える。
戸上さんは「あ、ごめん!」と謝ってから、和やかに笑った。
「『戸上さん』なんて他人行儀な呼び方しないでくれよー。“優”でいいぞ」
「わ……分かりました。優さん」
「ん!よし」
ポンッと私の頭に手を置いて、笑顔のまま顔を覗き込んでくる優さん。
かっこいい人に突然そんなことをされたら、誰だってドキッとしてしまうだろう。
少し早く鳴る心臓を気にしつつ、階段へ向かっていった優さんのあとを追った。
「ここがハルチカの部屋だ」
指差しで教えられたのは、階段を上ってすぐ左にある部屋だった。
3歩進むともう部屋のドア、というくらいすぐだ。
「キャリーバッグ中に入れていいか?」
「あ、はいどうぞ!」
優さんがドアを開けて私の部屋の真ん中あたりの床にキャリーバッグを置く。
そういえばずっと持たせてしまってた……。私お礼言いそびれちゃったのに、何も言わないなんて、かっこいいな。
ありがとうございます、と、胸の中で呟く。
「さて、残り行くか!」
部屋のドアを閉めた優さんがくるりとこちらを向いて、私を追い越し階段右側の通路へ行った。
まず左側にトイレがあって、その先の右側に高崎藍さんの部屋、少し奥にずれて左側に優さんの部屋、さらに少し奥にずれて右側に鈴原理央さんの部屋が並んでいた。
突き当たりの部屋が佐倉叶さんらしい。
「俺らとの生活に慣れても、夜は誰の部屋にも入っちゃダメだぞ?男はみんな狼なんだからな」
「…………」
狼って……。いつの時代の少女漫画だよ。
内心呆れたが口には出さず、頷いておいた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!