「っあー!負けた!!」
遙悠が悔しそうに叫んで、俺は嬉しいのを隠しつつ対戦前の画面に戻った。
しかし顔に滲み出ていたのか、少しムスッとされる。
「くっそー、勝ち誇った顔して……次は絶対勝つから」
「負けないよ。次も」
「……藍、結構負けず嫌いだよね」
「そうかも」
ゲームに関しては、誰が相手でも負けたくない。他のことは、割とどうでもいいけど。
春休みの課題が早くに終わったので、今日もリビングで遙悠とプロステを楽しむ。
いつもは優と叶(遙悠が来てからは彼女含め三人)が座る横長のソファに、俺と遙悠だけで座って。
――そのことに、最近、よく分からない嬉しさを感じるようになった。
「よしもっかい!対戦モードやろ!」
「いいよ」
お互いにプロステを操作して、バトルをスタートさせる。
だが、やはり気持ちだけでは実力の差は埋まらないため、また俺が優勢になる。
「っ……!」
両手の指を駆使して次々ボタンを押しながら、苦しそうな表情を浮かべる遙悠。
その横顔を盗み見た時、ある考えが頭に浮上した。
バレないように若干操作を遅くする。極めつけに一つミスをして、
「勝ったー!!」
遙悠の歓喜の声がリビングに響いた。
心底喜んでいるような様子を見るうち、自然と口元が綻ぶ。
遙悠は、不思議だ。
ゲーム関連で他人に負けることを嫌う俺が。
遙悠の笑顔が見られるなら、負けてもいい。――そんな気持ちになる。
「やったー……!やばい、すっごい嬉しい!」
「そっか。俺は悔しい」
唇に笑みを残したまま呟くと、遙悠が首を傾げる。
「そう言う割に、全然悔しそうじゃないね?」
「……さぁ」
「えっ、何その答え!」
「いいから次、違うのやろう」
「ん、おっけー!」
ニコッと笑う遙悠につられて、小さく微笑む。
この感情に名前がつくのは、もう少し先。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!