第32話

〈side 藍〉-気付かなかっただけで
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2019/03/26 11:09
「っあー!負けた!!」

遙悠が悔しそうに叫んで、俺は嬉しいのを隠しつつ対戦前の画面に戻った。

しかし顔に滲み出ていたのか、少しムスッとされる。

「くっそー、勝ち誇った顔して……次は絶対勝つから」

「負けないよ。次も」

「……藍、結構負けず嫌いだよね」

「そうかも」

ゲームに関しては、誰が相手でも負けたくない。他のことは、割とどうでもいいけど。


春休みの課題が早くに終わったので、今日もリビングで遙悠とプロステを楽しむ。

いつもは優と叶(遙悠が来てからは彼女含め三人)が座る横長のソファに、俺と遙悠だけで座って。

――そのことに、最近、よく分からない嬉しさを感じるようになった。

「よしもっかい!対戦モードやろ!」

「いいよ」

お互いにプロステを操作して、バトルをスタートさせる。

だが、やはり気持ちだけでは実力の差は埋まらないため、また俺が優勢になる。

「っ……!」

両手の指を駆使して次々ボタンを押しながら、苦しそうな表情を浮かべる遙悠。

その横顔を盗み見た時、ある考えが頭に浮上した。

バレないように若干操作を遅くする。極めつけに一つミスをして、

「勝ったー!!」

遙悠の歓喜の声がリビングに響いた。

心底喜んでいるような様子を見るうち、自然と口元が綻ぶ。


遙悠は、不思議だ。

ゲーム関連で他人ひとに負けることを嫌う俺が。

遙悠の笑顔が見られるなら、負けてもいい。――そんな気持ちになる。

「やったー……!やばい、すっごい嬉しい!」

「そっか。俺は悔しい」

唇に笑みを残したまま呟くと、遙悠が首を傾げる。

「そう言う割に、全然悔しそうじゃないね?」

「……さぁ」

「えっ、何その答え!」

「いいから次、違うのやろう」

「ん、おっけー!」

ニコッと笑う遙悠につられて、小さく微笑む。



この感情に名前がつくのは、もう少し先。

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