「いってくる」
「いってきまーす!」
「いってらっしゃい。車に気をつけろよ!」
優さんに見送られながら叶と共に玄関を出る。
大学三年生らしい優さんは今日、三時間目まで授業がないそうだ。
それなのに誰よりも早く起きて朝食を作ってくれておまけに見送りもしてくれて……兄さんでもこんなことしてくれないよ。すごいなぁ優さん。
「ハルチカ」
「何?」
「お前って優のこと好きだったりするか?恋愛的に」
「は!?」
隣を歩いている叶の方にバッと顔を向ける。
叶は何を考えているか分からない瞳で私を見下ろして、感情の読めない声で言った。
「ちょっと顔赤いな」
「いやっ、これは!恋愛系の話って、なんか恥ずかしいじゃん……?」
「別に」
バッサリと斬り捨てられ、私の中の熱が急激に冷めていった。
「……あっそ。とにかく私には恥ずかしいの。だから赤くなってただけで、優さんのことは好きだけど恋愛対象としては見てないよ」
「ふーん。ならいい」
「……何が……?」
「言っとくけどお前のこと好きだからとかじゃねぇぞ」
「うわ何その自意識過剰やっば」
と口では言いましたが、本当は心のどこかでほんの少しだけ勘違いしそうになっていたことを自白します。
少女漫画読んで育った世の中の女子はねぇ……そりゃ、絶対ないって分かってても「もしかして……」みたいな思考になるわけですよ。一番の自意識過剰は自分ですよってねはは。
……あー恥っずかし!!
羞恥と落ち込みと自己嫌悪とに悶えていたら、いつの間にか高校に着いていた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!