階段を降り一階の案内も受けて、優さんに「お疲れ」と頭をポンポンされたあと二人でリビングに戻った。
白いソファで頬杖をついて正面のテレビを見る佐倉叶さん、その少し離れた隣でプロステ(ゲーム機の名前)をする高崎藍さん、彼から直角の場所に置かれた一人用ソファでスマホをいじる鈴原理央さん。
皆さんそれぞれくつろいでいらっしゃる。
「ねぇねぇハルチカちゃーん」
私たちに気付いた鈴原さんが笑顔で手を振ってくる。
子供のような仕草に、何歳なんだろう、と思いながら鈴原さんのそばに行った。
優さんがどこかへ去っていくのが視界の端に見えた。
「なんですか?」
「んーとね、僕のこと理央って呼んでいいよ!それから」
急に腕を引っ張られ、体が前に傾く。咄嗟にソファの背もたれに手をつくと、理央さんの顔が目の前にあった。
「付き合わない?俺と」
「……!?」
頬がぼっと熱を上げる。
――「俺」!?さっき「僕」って言ってなかったっけ!?なんか目つきも違うし、纏う空気も180度変わって……。
何!?どういうこと!?!?
「その辺にしとけ理央」
誰かがハッキリと言った。
振り返ってみれば、テレビに注いでいた視線をこちらに向けている佐倉さんの姿が。
「悪ぃなハルチカ。そいつ出会った女片っ端から口説く癖があんだよ。気にすんな」
「佐倉さん……いえ、全然大丈夫です!」
さりげなく理央さんから離れて、佐倉さんの方に歩み寄りつつニコッと笑う。
佐倉さんがわずかに眉をひそめた。
「俺ら同い年だぞ?」
「……そうなの!?」
「あぁ」
肯定する佐倉さ……う゛ぅん、同い年でこの呼び方はおかしいか。
名前しか知らされていなかった私と違い、ここの人たちは私のことをよく知っているらしい。
「だから叶って呼び捨てでいい。高校も同じなんだし、気楽にいこうぜ」
「……ありがと!」
優しく微笑んでくれた叶に笑い返す。
ここ、男子しかいないから不安だったけど、良い人ばっかだなぁ。よかった……。
「貸し1な」
「え?」
「ちゃんと返せよ?」
意地の悪そうな笑みを浮かべる叶。
あれ、なんか雰囲気が違……。
「あーあハルチカちゃん、叶に“貸し”作っちゃったね」
「理央さん、それはどういう……」
「叶ね、めっちゃ性格悪いから。そのうち分かると思うけど」
理央さんがにっこりと笑った。
叶を見ると黒い笑顔で「騙される方が悪い」と言われる。
……前言撤回。不安だらけです。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。