洋紅色のキャリーバッグを転がしながら、広い歩道をのんびりと進んでいく。
佐藤遙悠、15歳。私は、どうしても行きたかった東京の高校に通うため――この春から、顔も知らない四人の人たちとシェアハウスをすることになった。
その人たちの名前は「佐倉叶」「高崎藍」「鈴原理央」「戸上優一郎」。
一人男子がいるけど……まぁ、大丈夫だよね。藍ちゃんとか理央ちゃんとかいるし!
でも、この「佐倉叶」だけはどっちかわかんないな……。男だったら男子二人か……。
まぁいいや!とりあえず楽しみー!
「えっと、ここか……」
スマホのナビ画面と目の前の家とを見比べて呟く。
普通の家だ……。いや、さりげなくディスったわけとかじゃなく、安心したというか。めちゃくちゃ立派だったり逆にボロかったりしたらどうしようって思ってたからさ。
私が今日からここでシェアハウスさせてもらうってことは、ここの人たちに伝わってるはず。母さんが昨日電話してたもん、間違いない。
よし……いざ!
人差し指でインターホンを鳴らす。ピンポーン、と耳に心地よい柔らかな音色。
おお、いい感じ……。
「ハイハーイ!」
明るい声が中から聞こえて、騒がしい足音が近付いてくる。
……気のせいじゃなかったら今の声、男だったような……。
不安が胸をよぎる。そして玄関の扉が勢いよく開けられた。
「ヤッホーハルチカくん!これからよろしくねー……って、あれ?」
「……よ、よろしくお願い……します?」
笑顔で飛び出してきた童顔の男子が私を見てきょとんとする。が、無言もあれかと思い、適当に返したら疑問形になってしまった。
この人、顔のわりに背が低くない。私が見上げてるんだから、160cm後半くらいはありそうだ。
男……ってことは、戸上優一郎さんかな。
「あの……」
「――おい理央、そいつは『くん』じゃねぇ。女だ」
シェアハウスの奥から響いてくる、低い声。
それは、間違いなく男の。
「やっぱり確認しなかったのか。ほんと、理央って理央だよな」
また別の低い声。
「お前らシャキッとしろよ!第一印象は大事なんだからな!」
「へいへい」
「わかってるって」
またまた別の低い声に、さっき聞こえた二つの声が応じる。
程なくして、戸上さんの後ろから見た目も年齢もバラバラな三人が出てきた。
全員男じゃん……。誰よこの人たち。超イケメンだけど正直戸惑うわ。
……ん?待って、シェアハウスから出てきた人たちが、全部で四人?
まさか……いや、そんなことあるわけが……。
「初めまして佐藤遙悠ちゃん。俺は戸上優一郎!よろしくな」
栗色の髪の男性が愛想良くニコッと笑う。
「佐倉叶だ。ヨロシク、な。ハルチカ」
黒髪の男子が何かを企むようにニヤリと口角を上げる。
「高崎藍。……よろしく」
ダークブラウンの髪の男子が面倒くさそうに言う。
「鈴原理央だよ!さっきはゴメンね、ハルチカちゃん。よろしくね!」
最初に出迎えてくれた金髪の男子が満面の笑みを浮かべる。
――思っていたのと読み方は違ったけれど、四人が四人とも、紛うことなきシェアメイトの名前。
全員……男だったの……?
私は絶句し、呆然とその場に立ち尽くした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。