「つかれてる?」
停めた自転車に横向きで座り
真正面の高い廃墟を見上げている
目線の先にはカーテンが靡いていて
吹いてる風とは逆方向に逆らってるかのよう
何故か目が離せなくて身動きが取れない
何度も廃墟ビルに身体が向かって見上げる
幾度繰り返しても踏み入れられない
ここは危険だと足が棒のように強ばる
外付けの階段に食べ物が見える
また誰かが訪れたのだろうか…それとも?
いつもより踏み出して入口を見据える
じっくりと中の様子を伺うのは初めて
ドアガラスは全て割れていてその先には階段
中へ踏み出そうとしたら奥から音が鳴り
まるで来るなと言われているようで留まった
吸い寄せられた気がするのに
拒絶反応も感じる
きっと1人ではないのだろう
見つめすぎるのは危ない
これで最後になるのだろうか
あと何回ここへ来るのだろうか
例え何度訪れても中に入る事はないだろう
ここが危険な場所なのは確か
興味本位に来る人が大人子供と絶えず
体験談もよく耳にする
だから子供心に確かめたくなったのだろう
でも異様な空気に当てられて
中に入る勇気は出なかった
それでも何度も訪れるのは
何か惹かれるものがあったのだろう
中に入らずとも近づいて暫く留まることを
繰り返していたら何か起こるのだろうか
いつしか心の拠り所になっていた
人生に疲れているせいだろうか
他にもそうなった人はいるのだろうか
何かに取り憑かれていたのかもしれない
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!