そのゲームを勧めてきたのは、嬉野疾斗の幼なじみだった。
自分の部屋に向かってくる足音で、幼なじみの親友、正道護だとはわかっていた。疾斗は寝転がっていたベッドから起き上がり、興奮した護の顔を見上げる。
護が自分のスマホを疾斗に見せ、『Lv99』の画面を見せてくる。面白そうだ。さっそくアプリを見つけてインストールを開始する。
にまっと笑う護に、疾斗は冷ややかに言葉を返す。
護はぐっと拳を握って、キラキラした目で虚空を見上げた。
冷たく言うと、護はどさっとベッドに倒れ込んで顔を覆った。
高校に上がり、一年の一学期も終わろうとしている。顔も頭も性格もいい──改めて考えると腹が立つほど完璧な護は、男女問わずクラスの人気者になっていた。
うだうだ言っている護を蹴りながら、疾斗はインストールの終わったアプリをタップする。『Lv99』はまずは自分が操る勇者のアバターを作るようだ。さっそくアバターを作り始めた時、ふと護が疾斗を見つめてきた。そして。
護の言葉に、脳裏にふわふわした長い髪が浮かんだが、それを慌てて打ち消す。
あんなのは、高嶺の花。自分に釣り合うはずがない。
護はぽつりと呟きつつ頷く。心なしかその耳が赤くなっていた。
疾斗の手からスマホが滑り落ちる。
乾いた笑い声を発しながら、護の顔がみるみる赤くなっていく。マジなやつだこれ。
疾斗の声に、護の顔から途端に赤みが引き、彼は膝を抱えてずーんと落ち込んだ。
ホッとしたのもつかの間、護の顔を見て、疾斗はすぐにケッと言葉を吐き捨てた。
昔から顔が良くて優しい護は女の子から大人気だった。告白された数も、疾斗が知っている範囲でさえ両手じゃ足りないぐらいだ。なのに、何を悩むというのか。
さすが幼なじみ。わかってしまったか。肯定も否定もせず、疾斗はアバター制作に戻る。その間も、護の嬉しそうな声が聞こえてきた。
疾斗の気のない返事に、護は不満そうだったが、聞いてるこっちが恥ずかしい。
きっとそれだけ護に想われているなら、相手も大切にされていることを感じ取っているに違いない。そして護は、間違いなくその子を幸せにできる奴だ。
絶対に言ってやらないけど、疾斗の自慢の親友なんだから。
ちょっとムカつくけど、彼女ができた暁には、ちゃんと祝ってやろう。
ふと、不安とともにふわふわの髪が疾斗の脳裏に蘇る。
ないと思いたい。でも、もしも彼女だったら……疾斗に勝ち目などあるはずがない。いや、別に、そういうのじゃないけど。
疾斗が恐る恐る尋ねると、護はその娘の名前を口にすることすら恥ずかしそうな、でも嬉しそうな顔をした。こんな護の顔を見るのは初めてだった。
幸せそうな笑顔の護に、何だか疾斗まで嬉しくなってしまう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!