第6話

第一章 信じたくて信じられなくて-3
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2018/08/10 03:00
二、三、四限も疾斗は眠気と闘うばかりでちっとも勉強は頭に入ってこなかった。そして昼休みに突入し、ようやく活き活きしはじめる。
いそいそとスマホにイヤホンを繫ぐ。
やっと『Lv99』ができる。
ゲームをしながら昼食用の菓子パンを早々に食べてしまい、あとは高難易度クエストでモンスター討伐に没頭する。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
(うーん、やっぱレベル90を超えると、なかなかレベル上がらないな……。アイテムドロップがうまいエリアを周回するしかないか。武器強化したいし……)
クラスメイト
──のくん。うーれーしーのってば!
急に声をかけられ、疾斗は慌てて顔を上げた。クラスでも派手な女子達が疾斗の前に立っていた。
クラスメイト
嬉野くん、確かA組の正道くんと仲良いんだよね? 幼なじみでしょ?
イヤホンをしていてよく聞こえなかったのもあるが、その言葉に戸惑う。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
は? え? な、何?
クラスメイト
正道くんってさ、彼女いるの!?
イヤホンを外しても、その問いには答えられない。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
いや……知らねえけど
クラスメイト
じゃあ聞いといてよ! ね! 家も近いんでしょ? お願いね~
嬉野疾斗
嬉野疾斗
はあ? ちょっ……!
嬉野疾斗
嬉野疾斗
(今は仲良くねえっての……!)
疾斗が了承する前に女子達はきゃあきゃあ笑いながら、疾斗の後ろ、つかさの席へと向かっていった。そういえば、彼女達はつかさと仲がいい。
クラスメイト
あっ、つかさ何それ。可愛いじゃーん!
スマホを見ていたつかさが少し慌てた様子で顔を上げる。
日廻つかさ
日廻つかさ
ありがとう。昨日、塾の帰りに見かけて、つい買っちゃったの
友人たちに圧倒されるようにして、つかさはひかえめに笑う。
つかさのスマホケースについていたストラップは、『Lv99』のマスコットキャラクター『もにうさぎ』だった。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
(あ。経験値にもならない雑魚モン……)
ボールにウサギの耳が生えたようなもにもにしたモンスター。手足はないからバウンドしながら移動する。一見可愛らしいが、普段は見えない口が大きく開くとサメのようなギザギザの歯で嚙みついてくるモンスターだ。その可愛さと不気味さが売りだとかなんとか。
クラスメイト
でもこれさー、ゲームのキャラクターじゃなかった?
一人の女子の言葉に、つかさはぴくっと肩を震えさせた。
日廻つかさ
日廻つかさ
えっ!? あ、そ、そうなの、かな……? でも、可愛いから……
クラスメイト
えー。それじゃつかさがオタクみたいじゃん
クラスメイト
あ、じゃあ今度みんなで、オソロのチャーム買いに行こうよ! ね、つかさ!
日廻つかさ
日廻つかさ
う、うん。……嬉しい
手を握られ、つかさはひかえめに微笑む。

その時、つかさが不意に疾斗を見た。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
(えっ、何で……!?)
目が合った瞬間、疾斗は慌てて目を逸らし、スマホの画面に意識を集中させる。
観崎功樹
観崎功樹
おー?
そんな声と共に、功樹の顔が疾斗の眼前に現れた。にやりとその顔が笑う。
観崎功樹
観崎功樹
今、疾斗とつーちゃん、目、合った!? 何、アイコンタクトってやつ!?
嬉野疾斗
嬉野疾斗
は……?
功樹のその言葉に、一瞬声が詰まってしまった。アイコンタクトなんてしていないが、目が合ったことは事実だった。
疾斗が言い返す前に、つかさの周りの女子の声が飛んできた。
クラスメイト
はー? つかさが嬉野なんて見るわけないじゃん?
クラスメイト
てか、あいつゲームばっかしてて、つかさとしゃべったこともないじゃん
クラスメイト
あー、私もしゃべったことなーい。ゲーム以外興味あるの、あの人?
女子達のあざけりの声。そんな言葉の合間に、つかさが小さな声を発した。
日廻つかさ
日廻つかさ
あの、私……そんなつもりじゃ……!
困ったように縮こまるつかさを見て、疾斗の胸がチクリと痛む。その痛みからも目を逸らすように、疾斗はスマホに目を落として言った。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
……見てねえよ
クラスメイト
えー、でも慌てて逸らしたじゃん? あやしー
にまっと笑い、しつこく追及してくる功樹の顔を殴り飛ばしたくなる。
女子の一人が疾斗を冷ややかに見て、つかさを守るように身を寄せて言った。
クラスメイト
ゲームにしか興味ない嬉野くんには、つかさは高嶺の花だよねえ
くすくすと笑う声にも、疾斗はもう反応しないことに決めた。どう思われようと、どうでもいい。これ以上関わる気もない。
功樹が手を挙げてバカみたいに明るい声を発する。
観崎功樹
観崎功樹
はいはーい! じゃあつーちゃん! 俺ともアイコンタクトしよー!
日廻つかさ
日廻つかさ
わ、私は……そんな……
クラスメイト
おめーは画面の向こうの視聴者と仲良くしてろ
観崎功樹
観崎功樹
ふええ、女子がいじめるよぉ……
功樹は蛍光色のパーカーのフードを被って、情けない泣き真似をしていたが、がばっと顔を上げて疾斗を見てきた。
観崎功樹
観崎功樹
ねー疾斗! 疾斗だってつーちゃんが可愛いから見てただけだよね!?
無視しようと思っていたのに、しつこい功樹につい、顔を上げて振り向いてしまった。功樹を睨もうとしたが、視線が向かったのはつかさだった。
つかさは友人に守られるように抱きしめられ、うつむいている。
恥ずかしがっているのか。怒っているのか。……泣いているのか。
疾斗との関わりのせいで、つかさが困っている。それが恥ずかしくて情けなくて、どうしようもなく嫌になった。
嬉野疾斗
嬉野疾斗
……っ違うって言ってるだろ! うざいんだよお前っ!
疾斗の大声に、クラス中の視線がこちらに向いた。
集中した視線に、疾斗は大声を出したことが急激に恥ずかしくなった。驚きと嘲笑、侮蔑……そんな視線が集まっている。
耐えられなくて、逃げるように教室の外に出る。
観崎功樹
観崎功樹
あっ! 疾斗っ!
功樹が引き止めるような声をかけてきたが、当然疾斗は足を止めたりしない。

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