この察しの良い弟には誤魔化しが効かない。
真広は私を置いて歩く。
私の口から浅い溜め息が漏れる。
私は先に歩いて行ってしまう真広の後を追いかけた。
急いで夕食を作り、食べた後シャワーを浴びることにした。
熱めのシャワーが疲れを癒してくれる。
ガラガラ
誰かが洗面所を開けて入って来る。
返事はない。いつもなら、絶対に冷たい返しがくるはずなのに。
洗面所で何かを探している音が聞こえる。
振り返るとドア越しに白い服に黒いズボンを着た人影が、歩いているのが見えた。
返事はない。
私はドアを少しだけ開けて顔だけ出した。
そこには誰も居なかった。
洗面所の扉の向こうから遥斗の声が聞こえた。
私は少しの違和感を覚えつつも、自分の勘違いということにした。
風呂から上がって、私はベットに座り髪を乾かす。
遥斗は机の上に座り、不服そうな目で私を見つめる。
遥斗が無邪気な笑みを浮かべる。
頬が熱くなるような感覚が分かる。
そんな状況で眠れる訳がない。
遥斗が机から降りて、私の横に座る。
先程まで笑っていた顔から、真剣な表情をしている。
冷たい手が私の頭を優しくポンポンと撫でる。遥斗は壁をすり抜けて部屋から出て行った。
私の心拍が少し速くなった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。