第8話

嬉しくない優等生
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2018/11/23 11:47
先生
人間社会の決まりで、これが守れないととても危険です
そうですね、灰島さん?
灰島香純
そうですね……
赤信号は無視したらいけないと思います……
授業が始まってから数日たった。
私は昔から特別勉強が出来たわけじゃない。
だから頭のいい人が、みんなから褒められたらどう感じるのか、
なんてことは想像もつかない。
だけど、今ならちょっと分かる気がする。
クラスメイトA
おおー……
クラスメイトB
やっぱり人間だよねー……
灰島香純
(めっちゃ恥ずかしい……!
逆にバカにされてるみたいに感じる……!)
悪気はないんだろうなと思いつつ、
私からしたら幼稚園レベルの問題を、
高校生で普通に答えて絶賛される。
こんな嬉しくない優等生って、ある?
氷室正雪
やっぱりすごいね、灰島さんは
優等生みたい
灰島香純
あはは、ありがと……
氷室正雪
あれ、嬉しくない?
灰島香純
……氷室くんは、
寒さを防ぐ方法って知ってる?
氷室正雪
いや? と言うか、防ぐ必要ないし
灰島香純
ごめん、例えが悪かった……
しかも私の話は、他のクラスにも伝わっていたらしく、
昼休みに崎口さんとご飯を食べているときも、
崎口美麗
香純ちゃん、すごい勉強できるって聞く……
灰島香純
いや、そんなつもりは……
あ、駄目だよ、包み紙まで食べたら
崎口美麗
ついてるソースがもったいない……
灰島香純
化け方はいい成績って自分で言ったんだから、
細かいところも気をつけないと
崎口美麗
う……気をつける……
氷室正雪
大変だなぁ、崎口さんも
灰島香純
氷室くんも、冷却シートベタベタ貼らないの
病気の人でも使いすぎだよそれ
氷室正雪
だって暑いんだもーん
崎口美麗
やっぱり香純ちゃん、普段から優秀……
灰島香純
いや、私が普通の人間なんだって……
息ができるって褒められても、
それで嬉しいと思える人なら、
きっとここは天国なんだろう。
私には息が詰まってしかたないんだけど。
灰島香純
別に私じゃなくて、
ちゃんと妖怪で優秀な人っているんじゃないの?
氷室正雪
まあ、もともと人型の僕らはそうだけど……
崎口美麗
細かい部分までは……あ……
灰島香純
誰かいた?
崎口美麗
うん……私のロ組に、一人すごい子が……
灰島香純
どんな妖怪?
崎口美麗
もともと人から妖怪になった人だから……
仕草とか、社会の決まりもすぐに受け入れちゃうの……
灰島香純
あなたもそうでしょ?
崎口美麗
私はみんなより後に生まれた『口裂け女』だから……
社会は知ってても、いろいろ我慢が……
灰島香純
ああ、ごめん……分かったから、袋舐めないで……
氷室正雪
みんなすごいなー。僕雪山にこもりっきりだったからさー
崎口美麗
とにかく、すごい子が――
???
失礼、あなたが新しく入った人間の方かしら?
かけられた声の方をみると、
そこには一人の女の子が私を見ていた。
艷やかで、肩くらいに整えられた黒髪。
制服は同じセーラー服のはずなのに、
彼女の着こなし方はやけにきっちりしていて、
制服カタログに載せられるような理想像が、
そのまま出てきたみたいだった。
そして、黄色く鋭い目つきが、私を見据えている。
その子はまるで、蛇みたいな子だった。

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