授業が始まってから数日たった。
私は昔から特別勉強が出来たわけじゃない。
だから頭のいい人が、みんなから褒められたらどう感じるのか、
なんてことは想像もつかない。
だけど、今ならちょっと分かる気がする。
悪気はないんだろうなと思いつつ、
私からしたら幼稚園レベルの問題を、
高校生で普通に答えて絶賛される。
こんな嬉しくない優等生って、ある?
しかも私の話は、他のクラスにも伝わっていたらしく、
昼休みに崎口さんとご飯を食べているときも、
息ができるって褒められても、
それで嬉しいと思える人なら、
きっとここは天国なんだろう。
私には息が詰まってしかたないんだけど。
かけられた声の方をみると、
そこには一人の女の子が私を見ていた。
艷やかで、肩くらいに整えられた黒髪。
制服は同じセーラー服のはずなのに、
彼女の着こなし方はやけにきっちりしていて、
制服カタログに載せられるような理想像が、
そのまま出てきたみたいだった。
そして、黄色く鋭い目つきが、私を見据えている。
その子はまるで、蛇みたいな子だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!