寮の説明を受け、食堂で初めての夕飯を済ませた後は、
そのまま真新しいベッドに横になった。
親に話しても、信じてもらえるか怪しいことしか無かった。
でも、ここにいるのは本当で、
今日見たことは全部現実の出来事。
でも、いちばん大事なのは一つだけ。
ここではいじめられずに、普通の生活が過ごせるかどうか。
今までが普通の生活じゃなかったから、
それがどんな物かは分からないけど。
ベランダの方から、何かがコツコツと窓を叩いている。
窓に近づくと、そこには何故か信志先輩が居た。
先輩はベランダの柵を、軽やかに乗り越える。
体は落ちず、まるで空中に立つようにこちらを見て、
翼を広げながら私へ両手を伸ばす。
まるで、初めて会った日の夜みたいに。
ここを紹介してくれたり、
もしかして先輩は、サラッととんでもないことを言うタイプなのかもしれない。
気恥ずかしさはあるけど、
私も柵を乗り越え、先輩の腕に座るように身を任せる。
結局、お姫様抱っこの姿勢になってしまった。
改めて近くで見ると、とても綺麗な顔立ちをしている。
灰色がかった髪も、もしかして私よりサラサラなんじゃないかな。
なんてじっくり見ていると、ふいに先輩の黄金色の目と視線があってしまった。
心臓が跳ね上がったのを知られないように祈りながら、
私はすぐに顔をそらす。
風を体に感じながら、私達は夜空へと飛び立つ。
一気に地上を離れ、どんどん高度が上がっていく。
そうすると心は気恥ずかしさより、緊張が勝つらしく、
私は先輩にしがみつくように抱きついていた。
月が、真正面で光っていた。
気がつけば、あたり一面が星空で、
下には街が小さく見える。
テレビや漫画じゃなく、
本当に星空の中を泳いでいる。
それから私達は、門限まで一緒に夜空を眺めていた。
結局あまり話はしなかったが、
二人で月を眺めているだけでも、勝手に満足していた。
こういうのを普通の学生生活って言うんだとしたら、
本当は、とてもいいものだったのかもしれない。
今度こそ、うまくいきますように。
先輩の隣で、星に願いを託していた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。