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第9話

少女と蛇と虎と馬
139
2018/11/30 12:55
灰島香純
ええと……あなたは……?
橋羽真姫
私は、橋羽真姫。あなたが今年初めて来た人間の人よね?
灰島香純
そうだよ、私は灰島香純……
橋羽真姫
ふーん……
いきなりやってきたその子は、
蛇のよう、ではなく本当に縦に細い蛇の眼で私を見つめる。
灰島香純
あの……何か……?
橋羽真姫
いえ、少し容姿を参考にさせて貰おうと思いまして
気を悪くしたらごめんなさい?
灰島香純
いや、まあ、妖怪だもんね……
彼女の棘のある言い方に面を喰らいつつ、
蛇の目がギョロギョロと動くのを見ているしか出来ない。
灰島香純
(気持ち悪いな……
この感じ、まるで――)
崎口美麗
真姫さん……勉強熱心なんだね……
氷室正雪
今休み時間なのになー
灰島香純
……そうだね、すごいや
二人のなんてことのない反応が、
今の私にはすごく助かっていた。
何でもいいから、その視線から外れたい。
でも、今目立ったらダメ。
灰島香純
(ここで間違ったら……
悪目立ちしたら、虐められる……!)
橋羽真姫
……なるほど、ありがとう。
参考になったわ
灰島香純
どういたしまして……
橋羽真姫
ところで、あなたクラスは?
灰島香純
ハ組だけど……
???
私、崎口さんと同じロ組なの
一ついいかしら?
灰島香純
何……?
橋羽真姫
今後、あなたのことを参考にしたいんだけど、
昼休みとかにお話させてくれない?
灰島香純
え⁉ う、うん、いいよ
私なんかで良ければ……
橋羽真姫
あなたじゃないとダメなのよ
人間の参考にするんだから
崎口美麗
でも、橋羽さん、十分できてると思うけど……
橋羽真姫
そりゃあそうよ。橋姫だし、元は人間なんだから
氷室正雪
じゃあ、参考にしなくてもいいんじゃ?
橋羽真姫
ダメ!
橋羽さんはキッと私達をにらみつける。
橋羽真姫
悔しいじゃない、一番じゃないと
崎口美麗
そう……かな……?
橋羽真姫
そうよ、でも人間は嫌い。
特に人間の男にはいい思い出も無いし……
灰島香純
(ああ、本当に嫌いなんだ……)
橋羽真姫
でも、我慢するわ。一番のために
そのためには、また人間に近づかないと
灰島香純
まあ、確かにそうだね……
橋羽真姫
だからね、灰島さん……
橋羽さんが私を見る。
蛇に睨まれた蛙みたいに、
私の体は強張った。
灰島香純
(ああ、この人は……)
橋羽真姫
私、あなたのことライバルだと思わせてもらうから
灰島香純
そんな、私なんて……
橋羽真姫
そう思うと、本当に追い抜くからね?
灰島香純
う、うん、気をつけるよ……
橋羽真姫
それじゃあ、今日はこの辺で失礼するわ
彼女は視線を外すと、
私たちに背を向けて歩き出す。
灰島香純
(ああ、やっと……)
橋羽真姫
そうだ、一つ言い忘れてた
灰島香純
な、何⁉
橋羽真姫
さっき、人間は嫌いって言ったけど……
灰島香純
うん……
チラリと橋羽さんは私を見る。
橋羽真姫
私ね、一番嫌いなのは、
人のものを盗む女の子なの
それだけ言って、
橋羽さんは今度こそ去っていった。
氷室正雪
いやーすごい迫力
元から人型は違うなぁ
崎口美麗
そうだね……あ、私も戻らないと……
じゃあ、また……?
灰島香純
(間違いない、あの人は……
他人を傷つけれられる人だ……)
氷室正雪
灰島さん?
灰島香純
(どうしよう、もう目をつけられた……
下手したらまた……)
崎口美麗
香純ちゃん……?
灰島香純
(また昔みたいに――)
氷室正雪
灰島さん!
灰島香純
冷たっ⁉
氷室くんが私のほっぺを両手で挟んでいる。
キンと頭まで響く冷たさに驚いたけど、
おかげで周りの様子に気がつけた。
崎口美麗
大丈夫……?
灰島香純
あ、うん……大丈夫だよ……
氷室正雪
本当に平気?
灰島香純
ちょっと、考え事してただけだから……
ほら、休み時間終わっちゃうよ?
崎口美麗
そうだね……じゃあ、また……
氷室正雪
辛かったら、保健室行きなよ?
灰島香純
二人共ごめんね……
大丈夫。
今は頼れる人もいる。
昔とは違う。
今度はきっと大丈夫。
私は放課後に生徒会室へ行くことだけを考えて、
午後の授業を過ごした。
それでも、蛇の視線を忘れることは出来なかった。

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