第16話

☪歌えない
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2018/12/02 09:36
09/06 00:00
To:GM
title:Return
※全国の中学生から29歳の人が対象です
※24時間以内に命令に従いなさい
※命令に背いた場合には罰を与えます

命令:現在地から半径250m以内に留まり続けろ
柚輝君と部屋に戻り、無言状態が続く。
夜中だというのに全く眠くならない。
走った疲れも、少しあった食欲も全くない。
ただあるのは寒気だけ。
鏡を見ると、片目が赤く染っている自分が座って、暗い顔で僕を見つめている。
明神 柚輝
……夜霧。
夜霧 真
何…。
明神 柚輝
そんなに重く考えなくていいと思う。別に俺はそんなこと夜霧に対して全く思ってないから。
夜霧 真
ありがとう…。あ、それとさ…
明神 柚輝
ん?
夜霧 真
僕は夜霧じゃなくて真だよ。出来たら、昔の人達と一緒は嫌かな〜って…
明神 柚輝
…そうだね、ちゃんと名前あるよね。真って名前。
そう答えた柚輝君の声は、普通に聞こえるけど、何処か嬉しそうにも聞こえた。
明神 柚輝
だったら、俺の名前には"君"なんかついてないけど?
夜霧 真
分かったよ、柚輝。
明神 柚輝
うん。
夜霧 真
そう言えば、そろそろ教えてよ。柚輝のこと。
明神 柚輝
………まぁ、うん。いいよ。
片耳にしていたイヤホンを取ると、柚輝は布団の上に座って、手招きをした。


僕もその隣に座る。
明神 柚輝
眠くなったら、寝ていいよ。
夜霧 真
分かった。
明神 柚輝
まぁ、話すことってあまりないような気もするけど…
夜霧 真
初めて会ったあの日、僕と同じって言ったでしょ?そこら辺を詳しく。
明神 柚輝
あー…あそこね…うん、じゃあ、何で同じって言ったのかまでを話すよ。
夜霧 真
うん。
明神 柚輝
まず、俺は母さん、父さん、兄さんの4人暮らしだった。アルビノだから生まれた時から真っ白な髪にこの目。
夜霧 真
家族の反応は?
明神 柚輝
母さんはずっと優しかったよ。
夜霧 真
母さん"は"って…
明神 柚輝
そう、母さん"は"この髪も目も綺麗って言ってくれた。けど…父さんと兄さんは俺のことを気味悪いっていつも言ってた。
夜霧 真
そうなんだ…。
明神 柚輝
母さんだけはいつも味方でいてくれて周りからも気味悪がれた俺を守ってくれたんだ。でも、ある日、強盗が家に入ってたみたいでさ…。俺は自分の部屋にいたから全く分からなかったんだけど…
そこまで言うと、柚輝は下に視線を落とした。
明神 柚輝
…強盗犯はリビングにいた俺以外の家族を殺して、金を奪い取ったんだ…。
夜霧 真
殺人強盗ってこと?
明神 柚輝
そういうこと。あの時、まだ母さんだけは生きていた。なのに、焦ったから声が出なくて、上手く歌えなくて…そのまま目の前で母さんは静かに息を引き取ったよ…。
夜霧 真
……。
そう、だったんだ…。
じゃあ、あの時の同じは"目の前"で家族を失ったってこと…?
明神 柚輝
…それからは孤児院で育った。まぁ、孤児院の中でも浮いて友達は1人もいなかったけどね。
顔を上げ、苦笑いを浮かべる柚輝。
でも、その表情は苦しそうにしか見えない。
明神 柚輝
人って改めて嫌いだと感じたな。
夜霧 真
どうして?
明神 柚輝
俺、鼻が利くから匂いだけで相手が嘘を吐いているかどうか、感情まで分かるんだよ。で、みんな嘘だらけで嫌だと思った。
夜霧 真
まぁ、その気持ち…分かるよ…。
柚輝とは少し違うけど、僕は耳が凄い利く。
あの部屋の中でも部屋の外の声まで聞こえていた。
見えないと思って、散々に言って、村の子供達にも言って…
だから、"君"は……
明神 柚輝
真?
夜霧 真
…あ、何も無いよ。
明神 柚輝
………これで話は終わり。
何かを察したように柚輝が話を終わらす。
一言も話すことなく5分程、沈黙が流れる。
明神 柚輝
本当に真は不思議な人だね。
夜霧 真
え?
明神 柚輝
真だけは基本、全く匂いがしない。
何を考えているのかとかが匂いだと何も読めないよ。
夜霧 真
うん…。
褒め言葉なのかどうかは分からないけど、珍しい。
そのことだけは理解が出来た。
早く寝ないと、迷惑をかけるよね…。
夜霧 真
そろそろ寝よっか。
明神 柚輝
だね。じゃ、おやすみ。
柚輝はスグに布団に入ると、寝息を立てた。
きっと、疲れていたんだよね。
ずっと走って疲れてるはずなのに、眠くない。
何かが引っかかってモヤモヤして寝れない。
布団には入って、目を瞑っていたけど、結局は朝を迎えて寝ることは出来なかった…。

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