ああ、そのことかぁ…。残念だけど…
理由はあるけど、口に出してはいけない。
夜霧家の掟にも書かれていたし。
僕は名前を呟きながら殺した人数を思い出し
数えた。
…夜霧家の中でも珍しくて、あの時に紅い月
を見ちゃったんだから。
初めて僕は友哉の言葉を遮った。
お願いやめて。これ以上…
…僕を人間に戻そうとしないでよ。
もう戻れないから、一緒にいられないから。
僕を止めないで。
友哉を見ると、驚いた顔をしていた。
そう告げると、僕は友哉に背を向け歩く。
すると…
いつもの友哉と違う声色。
低く人を嘲笑うような声に聞こえた。
ま、まさかねぇ……
その声に聞き覚えがあった僕。
状況を完全に理解する前に友哉は…
”殺す”、確かに友哉はそう言った。
背後から強い殺気を感じた。
僕は慌てて友哉の様子を見て距離を取るため
に、後ろを向き飛び退こうとする。
友哉は既に目の前まで迫っていて、僕の腕を
掴みそのまま自分の方に引いた。
そして、僕の鳩尾に膝蹴りを決めた。
まだちゃんと被っていなかったヘルメットが
頭から脱げ、地面を転がっていく。
1年間昏睡状態だったことにより、僕の体は
去年よりも弱っている。
そんな時に決められた鳩尾への膝蹴りは凄い
重く僕はその場に蹲った。
起き上がろうとした時、今度は頭に強い痛み
が走る。
一瞬、世界が真っ白になり、世界が回る。
どうやら頭を蹴られ、軽い脳震盪を起こしたみたいで体が上手く動かせない。
そう言いながら、髪をかきあげた友哉。
その目は人を蔑むような視線で僕の背筋が
一瞬にして凍りつく。
僕が一番恐れていたこと……。
僕が一番嫌いな視線……。
動けない僕を他所に、友哉は近くから太めの
木の棒を拾って近付いてきた。
ニッと笑い、木の棒を僕の頭に振り下ろす。
頭に強い衝撃が加わり、意識が遠のき始め、
このまま意識を手放す気がした。
と、もや……お願い…だか、ら…他の人は…
傷…つけ…ないで……
ゴンッ……!
頭に振り下ろされた2回目。
その2回目で僕は意識を完全に手放した……
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。