第26話

檻の中の君 sideユズ
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2018/12/25 10:20
世界はとても広い。
そう知ったのは、母さんがいろんなところに連れて行ってくれたから。
まだまだ知らない世界があるんだ!
そんなことをいつも思っていた。
寒い冬が終わり春になったある日、お母さんと一緒に山の中にあるという村に向かった。
名前は無い、”名無し村”なんだったって。
村の入口にはお母さんと同じくらいの女性が立っていた。
藍川 紗織
こんにちは、藍川紗織と申します。
そう言い、藍川さんはお辞儀した。
お母さん
初めまして。ほら、ユズも。
ユズ
こんにちは!
藍川 紗織
こんにちは。今日はわざわざ遠くからありがとうございます。
お母さん
いえいえ!それより、例の子は…
お母さんの問いに藍川さんが少し眉を下げ、悲しそうな顔をする。
藍川 紗織
あの子なら…いつも広場中央にある部屋にいます。
お母さん
分かりました。ユズ、お母さんは藍川さんと話があるから絆創膏と湿布を持ってその子に会っておいで。
ユズ
分かった!
お母さんから絆創膏と湿布を貰うと、村にある広場へ。
外に建てられた黒い部屋みたいのが見える。
すると、そこから男の人達が出てきた。
ユズ
あそこかな…
扉を開け、中を覗く。
ユズ
っ…!
濃い血の匂いが鼻を突く。
中は真っ暗で、何があるかが確認できるくらいで、細かいところまでは観察出来ない。
部屋の中には檻があった。
そして、その檻の中には手首を鎖で繋がれて横たわっている同じくらいの子。
暗くても日焼けをしてない白い肌に血が滲んでいるのは分かった。
少し怖くなってその場に絆創膏と湿布だけを置いてスグにその部屋から出た。
夜、お母さんに呼ばれると、向かいの椅子に座るように言われた。
ユズ
話ってなぁに?
お母さん
例の子には会ってきた?
ユズ
まぁ、うん…。
お母さん
じゃあ、あの部屋も見た?
ユズ
凄い可哀想…
お母さん
だよね。あの子は何もやってない。やったのはあの子のお母さんの、またその親の…って遠い人だった。でも、それもただの勘違いであんなことになってるの。
ユズ
そんなの酷いよ!
お母さん
ユズは広い世界を見てきたでしょ?
ユズ
うん!
お母さん
あの子は生まれた時からあの部屋にいるから狭い世界しか知らない。だから、ここにいる間に広い世界に興味を持たせるように話しかけてごらん?
ユズ
分かった!
そう言って、お母さんとの話は終了した。
次の日、再びお母さんに絆創膏と湿布を渡されて、宿を出る。
昨日のように血の匂いが鼻を突く部屋。
今日は逃げ出さずに、こう言った。
ユズ
大丈夫?痛いよね…。
って……

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