近付いて分かった。
君の目からは…死にたいって願望がある。
そんなのダメ……こんな狭い世界だけを見て、そんなことを思ったらいけない!
だから、手当をして、味方がいることを伝える。
そんな時の君は表情はあまり変わらなかったけど、目は少し輝いていて…そして……
…生きたいって願う”匂い”がしたんだ……。
そんなことを俺は寝ている真を見て呟く。
ちゃんと俺の記憶に残っている。
君が酷い生活を強いられていたこと。
君がゴミのように扱われていたこと。
まだ親の顔さえも知らなかったこと。
まぁ、無理もないか。
あの時は今よりも髪が長かったし、名前からしてもあの見た目でユズだと間違えるよな…。
チーム分けのとき、最初は真があの”名無し村”の子だとは分からなかった。
ただ伏せていて、壇上に立った人の匂いが全く無いから気になった。それだけ。
でも、君は君だった。
何事にも流されずに、自分の正しいと思ったことを実行する。
俺がつけた「真」って名前みたいに…
外を見ると、ほぼ満ちた月が浮かんでいた。
次に紅い満月が浮かべば、君は人間じゃなくなる。
でも、君の意思次第で紅い満月を見なければ、普通の君でいられる。
選ぶのは…君だ。
18歳が人間と化け物の変わり目。
6回目の紅い満月の時にその夜霧家の中でも選ばれた者は選択しないといけない。
確か…1回も紅い満月は見ていなかったっけ?
部屋に入ってきた璃紅の手は二人分の夕食を持っていた。
机の上にご飯を置くと、いつも当たり前かのように寝ている真に毛布をかける。
すると、ポツリと…
微かな笑みを浮かべ、璃紅は話す。
すると、廊下からドタバタと慌てた足音が聞こえたかと思うと…
手にしているスマホを見ながら、焦りの匂いを漂わす朱雀がこう言った。
そう言うと、朱雀が俺と璃紅に持っていたスマホの画面を見せてくれた。
一斉送信予定日時:09/08 00:00
To:GM
title:Return
※全国の中学生から29歳の人が対象です
※24時間以内に命令に従いなさい
※命令に背いた場合には罰を与えます
命令:狐面の男女と夜霧真を殺せ。殺せなかった場合には逃した1人につき、5000人に罰を与える。
そして、真を軽く揺らす。
真の少し瞼が開き、俺を見る。
……少し悲しそうな匂いがして何故か、その目には涙が溜まっているように見えた。
それを聞き、じっと俺の顔を見た真は…
そう言うとまた寝てしまった。
今のは意識があるのか…寝言か……。でも…
朱雀と璃紅に聞こえるか聞こえないくらいの声でそう呟くと、俺は真を背負い外へ向かった…。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!