「ついたぁー!」
車を降りて、伸びをした。
「あ、ちょっと待ってください。チケット買って来ますね。」
「あ、あなた。俺が買うから良いよ?」
「え?だって今日、達也さんの誕生日ですよ?だからいいんです!」
さりげなく、また“さん”付けで呼んだ。
ちょっと、呼び捨ては私にとってハードルが高過ぎる…。
「うーん、でも、俺はあなたが居れば十分だし、」
私はその言葉を聞いてカッと顔が赤くなった。
「え、いや、その…」
あたふたする私を見て、フッと笑った。
「じゃあ、それぞれ自分で買う?それなら良いでしょ?」
「うん、まぁ、それなら。」
と、チケットを買い、中に入った。
「うわぁ〜!サメおっきいー!」
「あ、この子可愛い!」
「エイだ!うふふ、笑ってる〜。」
などと一人ではしゃいでいた。
あっ、達也さん楽しんでるかな?
と思い、振り返る。
すると、目が合った。
「達也さん、楽しいですか??」
「うん、あなたがはしゃいでて可愛いなーって思いながら見てた。」
「えっ!え?ちゃんとお魚見ましたか?」
「うん、それは大丈夫。ちゃんと見たよ。」
「じゃあ、行こっか。」
と手を差し出された。
「はい!」
私はその手を握り、二人で歩いた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!