琉は、震えている。
私の差し出した手を取らない。
何故だ?
私は聞いた。
『どうしたの?大丈夫?』
『だ、れ・・・?』
震えている声で聞いてきた。
私は、その言葉を聞いて、絶望した。
悪い未来が見えたような気がした。
記憶がなくなったのか。
そんなわけないよね・・・。
私は、琉を信じた。
そして、覚悟を決めた。
『琉、私だよ。』
私はそれだけ言った。
次の返事で分かる。
記憶が無くなってしまったのか、ただの冗談かどうか。
どうしたの。
返事が遅い。
その瞬間、聞きたくないことを聞いてしまった。
『琉って誰?』
琉はそう言った。
まさか、本当に記憶を失ってしまったのか?
嘘だよね…。
きっと…。
嘘だと思いたい。
でも、自分の名前を忘れてた。
本当に記憶が無いのかな?
もしそうなら、消した記憶は、消した本人しか戻すことが出来ない。
じゃあ、もう琉は、私のことを思い出さないのか?
私の事だけじゃない。
結愛の事も忘れてしまったの?
私は、色々聞く前に殺してしまってことに後悔した。
もっと、色々、聞いといた方が良かったのか?
私のせいでこうなったの?
それなら、ごめんなさい。
ちゃんと謝る。
だから、お願い。
琉の記憶を戻してよ…。
また、大切な人を失ってしまうのか。
諦めてしまうのか。
いや、諦めるんじゃない。
諦める事しか出来ないんだ!
悔しい。
何で、どんどん私の前から皆、居なくなってしまうの。
寂しい。
皆、酷いよ。
違うか。
酷いのは、私だ。
守れなかったんだから。
私には、やっぱり誰も守ることが出来ないんだ。
正確には、出来なかったんだ。
琉、私のことを忘れないでよ。
思い出してよ。
もう全部、夢だったらよかったのに・・・。
ここに来たのも、結愛や神様や琉や閻魔などに出会ったのも、全部、全部、夢だったら良かったのに・・・。
私は、これからはどうすればいいんだ。
分からない。
もう何も分からないよ。
何でこんなことになってしまったの・・・?
誰か助けてよ!
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!