いつの間にか、暖かい透明なものが流れていた。
それを見た、琉は私に声を掛けてきた。
『大丈夫か?』
震えているのに、手を差し出してくれてる。
やっぱ、琉は優しい。
それは、変わってないんだ。
良かった…。
『ありがとう。』
そう言ったが、私が琉の手を取ることは無かった。
無理しなくていいよ。
怖いなら、怖がればいい。
怖がって、離れてくれた方が、いっそ楽なんじゃないか。
そう私は、思ってしまった。
私が今やってることは、最低だって分かっているよ。
だって、見捨てるってことでしょ。
でも、もう巻き込みたくないんだ。
ごめん、琉。
本心じゃない。
けど、これはしょうがないことなんだよ。
『琉、死にたい?生きたい?生きたいなら、十秒以内にココの教室から出てって。死にたいなら、残って。』
きっと、出てくはず。
九、八、七、六…。
まだ行かないのか?
早く行って、お願い。
殺したくないからさ。
『0。あと、五秒足すから早く逃げなよ。』
私はそう言った。
行ってほしい。
『行かない。気付いてないのか?涙さっきからずっと止まらない。ほっとけない。』
気づかなかった。
何で、そんなとこまで見てんの。
気づかなくてよかったのに。
一人になりたい。
そうすれば、楽になるような気がするから。
だから、私は、言ったんだ。
『行って!殺すよ?』
『別にいいよ。』
即答だった。
そんなこと言いながら、震えているくせに。
そして、その時、琉が言った。
『楽になりたいだけでしょ?』
何で、そんなことまで分かるの?
そして、琉がまた言ってきた。
『諦めちゃっていいのか?』
私は、琉から言われたその一言が心に刺さった。
そうだよね。
何で諦めようとしてたんだろう。
何で、琉を見捨てようとしてしまったのだろう。
そんなことしたら、後で後悔するって知ってたのに。
それに、今、記憶が無くなる前の琉と話しているみたいだった。
琉が琉であることは変わってないんだ。
記憶が無くなったなら、これから、また、作っていけばいいんだ。
よし決めた!
もう諦めない。
何があっても、絶対諦めない。
私は、決心した顔つきで琉に言った。
『そうだよね。私、諦めない!君の名前は、琉、これからよろしく!改めて、琉、仲間になってください!』
琉は驚いていた。
返事が怖い。
『琉…。いい名前だな!怖がってて、ごめん。もう怖くないや。こちらこそよろしくな!』
琉の震えは、いつの間にか止まっていた。
それに、笑っていた。
それに、つられて私も笑っていた。
でも、こうやって笑っていられるのも、今だけだ。
いつか、一瞬で壊れてしまうんだ。
それを防ぐ方法は、強くなること。
それだけだ。
もう壊れるのか?
もう来てしまった。
『魔女さん!仲間になれよ!』
さっき、倒した奴の仲間か。
今度は、数が多い。
『ならない!』
私はそう言った。
なった方が楽かもしれない。
でも、ならない。
楽にならなくたっていい。
諦めない方を私は選ぶ!
『じゃあ、知らねぇぞ?バーン!』
敵はそう言って笑った。
『うっ!』
腕に矢が刺さった。
ふらつく。
毒矢か。
でも、負けない。
魔法で毒が全身にまわるのを遅くした。
『ずるい手だね。でも、こんなのなんて事ない。』
動けなくなるまで、三分程か。
それまでに倒そう。
『琉、下がってて。』
『分かった。』
素直に言う事を聞いてくれた。
ありがとう。
私は、心の中でそう呟いた。
琉がこいつらを倒すのは、難しい。
魔法を使うから。
だから、私が倒さなきゃ。
私しか倒せないんだ。
最後まで諦めない。
時間内に倒してやる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。