その後、家の中の確認をした。
特に取られているものはなかった。
そして、一度外に出る。
「では、ご家族に連絡をさせていただきたいんですが…。その方は…?」
「あ、えっと…。」
どうしよう。
「高校の教師をやってます。高橋です。」
あ、大丈夫かな?
でも、抱き合ってるところは見られてない。
「あ、先生でしたか。」
「はい。今パトロール中と言いますか、見回りをしていまして。」
「なるほど。では、ご家族は?」
「今、海外主張に出ていていないんです。」
続いて私が答える。
「そうでしたか。では一応ご連絡させていただいても?」
「はい、」
私はお母さんの携帯番号を教えた。
「あ、もしもし。〇〇警察のものなんですけれども…」
などと、今まであったことを説明した。
電話越しに少しだけお母さんの声がする。
『あぁ、そうでしたかご心配をおかけしました。』
といつもと違う口調で言う。
穏やかで、優しそうな感じ。
いつもは全然違うのに。
外面だけはいいんだから。
「あ、娘さんに代わりましょうか?」
『はい、お願いします。』
警察官は私に電話を差し出す。
ペコっと頭を下げて受け取った。
「もしもし、」
『大丈夫なの?』
イラついているようだった。
「うん、なんとか。」
『そう、まさか日本に帰ってきてなんて言わないわよね?全く、もう。』
「大丈夫だよ。大丈夫。」
なんだか自分に言い聞かせているようだった。
“大丈夫”って。
『そう、じゃあいいわね。余計な心配かけさせないで頂戴。』
「…。」
私はグッと手のひらを握り締める。
心配なんてしてないくせに…。
「ごめんなさい。」
『はぁ、』
盛大なため息。
『じゃあ何かあったら言いなさい。お母さん忙しいから。じゃあ。』
と、早口でいい、電話を切った。
ツーッツーッという音が聞こえる。
ふぅ。
「ありがとうございました。」
と、笑顔を作って電話を返す。
あ…。
警察官はなんだか、可愛そうだ。と言いたげな表情をしていた。
全部…聞こえてたんだ。
「ご心配をおかけしました。もう大丈夫です。ありがとうござました。」
と頭を下げる。
「あ…はい。ではこれで失礼します。何かあればまた呼んでください。」
「はい」
お互いに頭を下げた後、パトカーに乗って行ってしまった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!