「好き…」
そう言った時、先生は、複雑そうな表情をした。
驚きもあるだろう。でも、やっぱり、困ったような表情だった。
「…ごめんね、」
私は無理やり笑って言う。
私はそれを言うので精一杯だった。
ごめんね、先生。好きになっちゃて。
ごめんね…。
私は立ち上がり、屋上のドアへ向かう。
ドアノブに手をかけた時、腕を掴まれた。
私は振り返らない。
だって…
こんな顔見せたくない。
ボロボロとこぼれ落ちる涙。
先生。なんで引き止めるの。
「やだ…。離して。」
震える声で言う。
それでも先生は離さない。
「先生、先生は私を引き止めて何がしたいの…?
先生は私の期待には答えられない!そうでしょう!?」
泣き叫びながら言う。
「なら、こんなっ…引き止めるようなこと…しないで…。」
そう言うと、先生が手の力を抜いた。
それと同時に私の腕も垂れ下がる。
あぁ、もう。
そう、それが先生の答え。
私はドアを開けて、走って、走って、走った。
この心の苦しさを、紛らわせるかのように…。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!