「なんでも、って…
そんなの理由になってねーじゃん。」
ドクン、ドクン。
…聞いちゃいけないものを聞いてしまったような…。
ほんとは、雄太も、聞かれたくないと思う。
分かってる。
でも、足が動かないよ。
「今更とか言うなよ。
やり直すのに時間関係なくねぇ…?」
雄太…まだ元カノのこと…。
前に、2週間前に別れたとか言ってた。
ってことは別れてからもう1ヶ月くらい経ってるのかな?
雄太が振られた、でも雄太はまだ好きでやり直したい。
ってところ?
「あ、おいっ!
…クソッ…。」
雄太が叫んだのに驚いて、顔をそーっと覗かせてみる。
壁に寄りかかり、俯いている雄太。
無気力にだらりと垂れた手に握られたスマホは今にも落ちそうになっている。
「はぁ…」
雄太はため息をひとつついて、手で髪をぐしゃぐしゃっとし、天井を見上げた。
雄太…。
相当その人のことが好きだったんだね。
見たことなかった。
あんなに取り乱してる雄太。
あんなに悲しげな表情。
ーキラリ
雄太の目元に涙が光る。
えっ…
雄太、泣いてる!?
一瞬驚いた。
だって雄太が泣いてるなんて…
普段の雄太からなら想像出来ない。
男の子の涙。
それは見とれてしまうほど、綺麗だった。
男の子の綺麗な涙を見たのは…初めてかもしれない。
ドキッ。
少しだけ、鼓動が速くなる。
羨ましいよ、その元カノさんが。
だってこんなにも想ってくれる人がいるんだよ?
どんな人なんだろう。
雄太には、泣くほど好きな人がいる。
別れても想ってる人がいる。
尊敬する。
私は…柊真のこと、どれくらい好きかな。
…私は、柊真の彼女。
しっかりしろ、私!
雄太のことは、友達として、心配して。
雄太と私はただの友達。
ただのクラスメート。
もしくは、恋の相談相手?
とりあえず、お互いはお互いのことを好きじゃない。
和田くんは昨日、私に「アイツのこと好きなの?」って聞いたけど、雄太と私のあいだに、恋愛感情なんて存在してないよ。
なのに…なんでだろう。
なんで胸が、チクッとするんだろう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!