この胸のチクチクは…いったい…何?
ー好き?
好きだから?
好きだから、雄太に好きな人がいるって知って、胸が痛いの?
やだよ。
そんなの、認めたくない。
好きになりたくない。
好きになっちゃいけない。
だって私には柊真がいる。
雄太を好きになったら…柊真との関係は…どうなるの?
それに、雄太には、好きな人がいて…。
もし仮に、私が雄太の事を好きになったとしたら…それは、失恋。
そんなの、嫌。
「おい、なにやってんの。」
え。
声のする方をゆっくり向く。
「あ。」
顔を見上げると、そこに居たのは雄太だった。
目元がまだ赤い。
「あ、いや…」
「盗み聞き?
いい趣味してんね。」
わ、怒ってらっしゃる…。
「…ごめんっ。
トイレ行こうとしたら、雄太が電話で話してて、なんか、深刻そうだったから…」
まぁ、トイレ行くって言うのも、雄太が気になったから見に行く口実なんだけどね…。
雄太の顔は怖いまんま。
「決して、悪気があったわけでは…っ!」
必死に弁解する。
「はぁ…。」
ため息。
呆れられた?
「あーもっ!」
雄太はそう言って頭をかいて、床にしゃがみ込んだ。
わ、怒ってる?
ごめんなさい。
「オレ、かっこ悪いじゃんね。」
「は?」
思いもよらぬ雄太の言葉に頭が追いつかない。
「え?」
かっこ悪い?
「なんで?」
私の何気ない質問に、雄太は私を見上げて睨んだ。
ひっ…。
「はぁ…。」
そしてまた俯いた。
「だってさ、あなたには“彼氏のことなんて忘れて”とか言ったくせに、オレは元カノを引きずってるわけだし…泣いたし。」
「…。」
私は口を開こうとして噤む。
なんて声をかけたらいいか、言葉を探し、選ぶ。
「泣くのはさ、悪いことじゃないと思うよ。」
私の言葉が意外だったのか、雄太は私を見上げた。
「泣くほど好きって、いいことじゃん。
ホントに好きってことじゃん。
全然かっこ悪くないよ。」
「あなた…。」
私は雄太の隣にしゃがむ。
「少なくとも、私はそう思ってるからさっ!
ほら、泣いていいよ?
なんなら胸かそうか!?」
私は両手を広げた。
「ふっ…遠慮しとく。」
雄太は静かに笑って上を向いた。
そして目を閉じる。
「あなた、カッコよすぎかよ。」
ボソッと放たれた雄太のその言葉は私には聞こえなかった。
「えっ?
何?」
「…なんでもねーよ。」
雄太の目からまた涙が零れる。
ドキッ。
…ん?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!