午後になって、気温は一気に上がっていった。
オレは虎愛と一緒に、昨日いた海岸にいた。
ただ、砂浜には降りないで、堤防の上から海を見ていた。暑ければ暑いほど、海風は涼しくしてくれる。
誘ってないし、オレらが連れられた訳ではない。勝手に付いてきたんだ。
2人は俺を間に挟んで、からかい続けた。
途中からは否定するのも面倒になり、オレは話すことすらやめた。
オレが反応を示さないと、2人の口も止まった。
話し声が無くなり、波の打つ音と、風が吹く音しか聞こえなくなった。これが一人だったら、とても心地よかったんだけどな…せめて虎愛だけ。
心のモヤモヤは晴れることもなく、加えて悩みが多くなって、ため息しか出てこない。
この場所は、無心になれるから気に入ってた。ただ、かえって今は、考え事が多すぎる。この空みたいに、何も混ざっていない心が欲しくなった。
虎愛がいきなり声を発したことにも、少し驚いたが、それより『あの子』という単語の方が引っかかった。どこかで期待する自分に、またも呆れる。
2人の見ている方角には、あの目の裏に焼き付いて離れない、彼女の姿があった。
伸びた背筋、風に柔らかく靡く髪、細く綺麗な手足…。
見覚えのある横顔を見て、思わずオレは飛び出した。
砂浜に飛び降り、後ろからの2人の声を無視して、向こうにいる彼女へ駆け寄った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。