――妄想中――
そっと私を抱き寄せて微笑む爽やか王子。
私の耳元でそう囁くと、爽やか王子は私の体を優しく持ち上げてお姫様抱っこをする。
心を優しく包み込むような笑みに、私は思わず頷き――
――何かに腕を力強く引っ張られた(妄想終了)。
妄想の世界にいた私は、気づくと外道王子に抱き寄せられていた。
こ、これが夢のヒロイン争奪なの⁉
と、思わずどきまきしちゃうけど……。
なんで外道王子に抱き寄せられたのか、いまいち状況がわからない。
だけど、一つはっきりとした。
やっぱりこの人は嫌な人だと!
そうだ! そうだ! もっとこの外道さんに言ってあげて! 爽やか王子様‼
私はコクコク頷きながらエールを送った。
な、なんだろ……。この二人、すごく険悪な雰囲気だよ。仲悪いのかな?
それに外道さんのことを九条社長って……え? 社長っ⁉
桐ケ谷様はニッコリと笑うと、白くて綺麗な手を私に差し出してきた。
桐ヶ谷様のイケメンスマイルに思わず頬が熱くなる。
も、もう死んでもいいかも……。
わたわたと興奮する脳内を落ち着かせながら、私は桐ヶ谷様の手を握ろうとした。
その瞬間――バチン、と響いた。
その音は外道――九条さんが桐ケ谷様の手を払う音だった。
い、いきなり姫花ちゃんだなんて⁉ 恥ずかしすぎるよ!
それにこの人、丁重に断ったって絶対に嘘――じゃなくて⁉
両親に挨拶⁉ しかも姫花と呼び捨て⁉ もう意味がわからないよ‼
桐ケ谷様~‼ 私の味方は貴方様だけですぅ‼
もっと言ってやって下さい! この鬼畜外道に‼
すでに嫌です‼ 桐ケ谷様ぁ‼
――バタン。
桐ケ谷様に助けを求めようと伸ばした手は、無情にも扉によって閉ざされてしまった。
ひ、1人にしないで……桐ヶ谷様。
……私、本当にどうなっちゃうの?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!