第10話

二章-3
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2018/08/22 02:48
「相原さん、ちょっといい?」
 ハッピーな気分で下校しようとしていたら、クラスの女子三人に声をかけられた。
 返事をする暇もなく、そのままあれよあれよと校舎裏に連行される。

「あのさ、相原さん最近、柏木君に馴れ馴れし過ぎるんだよね」
相原ゆず
相原ゆず
……はあ
「『はあ』じゃないし。柏木君は優しいから顔に出さないけど、絶対内心迷惑してるから」

「お弁当とかそーゆーの、マジやめて。王子になんかあったらどーするわけ?」

「隣の席になって、調子に乗られたら困るから、あたしたちが忠告してるんだよ。わかってる?」

怖い顔で囲んでくる女子たちは、いわゆる『はちみつレモン王子親衛隊』、みたいなポジションなんだろう。
──やった! これぞ少女漫画的展開!
やっぱり食パンかじって角でぶつかる効果は半端ない。着実にフラグが立ちまくっている……!
心の中でガッツポーズをしていたら、「ちょっと!」と親衛隊Aさんに肩を押されて、よろめく。

「聞いてるの? いい気にならないでって言ってるの」
相原ゆず
相原ゆず
いい気になんてなってないけど……
「なってんじゃん!」

「口答えするわけ?」

ひえ~、やっぱ生で囲まれると迫力あるな……怖い怖い。
でも、このパターンならそろそろ王子が助けに来てくれるはず……。

「あんたレベルの女子、柏木君に全然釣り合わないし!」
相原ゆず
相原ゆず
痛っ、髪引っ張らないで
「もう近づかないって約束してよ」
相原ゆず
相原ゆず
なんであなたたちにそんな約束しなきゃいけないの?
思わずムッとして反論したら、私を見下ろす六つの目がますますきつく吊り上がった。
あわわ。柏木君、早く来て~。

「──思い知らせる必要があるね」

そう言いながら、親衛隊Bさんが近くにあった水飲み場で、バケツに勢いよく水を注ぎ始めた。……まさか、あれを私にかける気?
冗談じゃない、と脱出しようとしたけど、「逃げんなよ」と他の子たちに道を塞がれる。
えーと、かなりピンチなんですけど。柏木君は、来ないの?
こんなベタな展開なのに……ヒーローだけは不在なの?

──「少女漫画はファンタジーだ」

慧君の冷たい声が、脳内に蘇り、胸が締め付けられる。

「──ウザいんだよ!」

親衛隊Bさんがそう言いながらバケツを振り上げる。
相原ゆず
相原ゆず
…………!
息を止め、身をすくめたその時。
「やめろ!」

男子生徒の声が響いて、親衛隊Bさんがギョッと動きを止めた。
しかし、バケツの水はそのまま勢いよくこちらにぶちまけられる。うわあ、危ない!
囲んでいた女子たちのガードが緩んだおかげで、とっさに身をかわし、全身ずぶ濡れは回避した。とはいえ、右半身はビチョビチョ……。

「……悪い。一歩、遅かった」

すごい勢いで逃走していく親衛隊たちを横目に見ながら、ばつの悪そうな顔で木の陰から近づいてきたのは──慧君!?

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