シン、とその場を覆った一瞬の静寂の後、「ギャーーーー」と相原の絶叫が響き、ギャラリーもどよめきだす。
青くなって謝り倒す相原とともに、その場にうずくまる柏木の傍へと駆けつけたところ。
柏木から、吐息交じりの呟きが聞こえ、「え、なに?」と相原が耳を寄せる。刹那。
頰を真っ赤に染めた柏木がガバッと顔を起こし、相原の両肩をつかんで興奮したように叫んだ。
………………は? なに? 『ご主人様』?
ポカーンとする俺たちの前で、陶酔したようにうっとりした瞳で、自分の体を両腕で抱きしめながらぶるぶるっと身を震わせる柏木。
呆然と聞き返した相原に、柏木は無邪気な笑みを浮かべて、宣言した。
「「「「────どええええええええええ!?」」」」
とんでもないカミングアウトに、ギャラリー含めその場にいた全員が絶叫した。
実にいい笑顔で断言する柏木。
ラケットを捨てる前にコンテナをガンガン蹴りつけてたのも、むしゃくしゃしてたんじゃなく、父親に捨てろと言われて苦しみつつも悦びを抑えきれず昂っていた、とかか!?
四つん這いになり、期待に満ちたキラキラした眼差しで相原を仰ぐ変態王子。
ちなみに、この一幕をもって『はちみつレモン王子親衛隊』は速やかに解散し、相原が嫌がらせを受ける心配はなくなった。
しかしこれ以降、俺と相原は、王子と思いきや実は下僕だったドMに付きまとわれるようになったのだから、結果としてはプラマイゼロどころの話ではないのだった……。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。