第8話

引退は、まだまだ先?
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2018/11/05 13:35

他にも、未来や過去の自分になりきって手紙を書いてみたり、その逆に未来や過去の自分に返信を書いてみたり。


とにかく、竹間の発想や行動はおもしろく、文香は飽きなかった。


入部前の約束通り、字の上達を臨んだ文香のために、練習帳を譲ってくれたり、直接教えてくれたりしている。


放課後の二人だけの時間は、のどやかで、楽しい。


そして、文香は――竹間のことを、異性として好きになっていった。
藍原 文香
藍原 文香
(千歌ちゃんの言った通り、優しいし……何より、笑顔がいいんだよなあ)

最初に会った時、笑いかけられて胸をときめかせたのは、間違いではなかったのだ。


彼はいずれ卒業してしまうが、それまでに告白できたら、と思っている。

藍原 文香
藍原 文香
(そんな自信、今はないけれど……)

「何か一つ頑張りたい」と踏み出した文香の背中を、そっと推してくれた彼のことが、文香は好きだ。


そんなことを思いながら、文香が次の便箋をはぎ取ろうとしていると、失敗してしまった便箋を竹間が覗き込んだ。

竹間 信親
竹間 信親
今はスマホもパソコンもあるし、みんな簡単な方を選びがちだけど。
僕は直筆の手紙が好きだな
藍原 文香
藍原 文香
あ、分かります。
文字にも文体にも、一人一人の個性がちゃんとあって、温かいというか……
竹間 信親
竹間 信親
そう! それなんだ!

機械的な文字が並んでいると、誰が誰だか分からない。


本当にその人が書いたものかも、確信は持てない。


手紙のよさを、文香も理解しつつあった。
竹間 信親
竹間 信親
分かってくれる部員がいることが、こんなにありがたいなんて……
藍原 文香
藍原 文香
ふふっ。
まだまだ駆け出しですが
竹間 信親
竹間 信親
あ、そういえば。
僕が引退した後は、藍原さんに部長を頼むと思うんだ
藍原 文香
藍原 文香
……引退?

引退なんてまだまだ先、と思っていたが、もう六月も終わりに近づいている。


試合も大会もない部活だが、竹間にも受験があるのだ。


ずっとここにはいられない。

藍原 文香
藍原 文香
(先輩と過ごせるのも、限られているんだ……)

そのことをすっかり失念していた文香は、言葉に詰まった。

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