その日の放課後、私は早めに体育館へ。
でも、先に1年が部活の準備を始めていた。
画鋲が刺さりまくってるバスケットボールを持って1年が表情を曇らせる。
やって来た倉科君がボールを確認。
すると一瞬だけだけど、眉間にシワが寄ったように見えた。
その後も柚稀が学校に来る度に私達は同じことを繰り返した。
倉科君が柚稀がやったんじゃないかと考えるのも時間の問題で、来る度に作戦実行をずっと続けたら最初とは比べ物にならないくらい怒っているのは一目瞭然だった。
そして、1軍の私と2軍の優花里と司の力でバスケ部のボールに柚稀が画鋲を刺したらしいと広めたらもう誰もが犯人が柚稀だと思っている。
ついに、最初に刺してから2週間が経った10月の4週目のこと…
「そんなことないよ」というように冗談を言った柚稀の元に倉科君が近付いた。
不機嫌そうな倉科君に柚稀が少し不安げに怒りの原因を聞く。
そこで誰かにはめられたと悟った柚稀が俯く。
それでも、倉科君は止まらなかった。
ついには…
私や優花里を含む、クラスのみんなが初めて聞く倉科君の本気の怒鳴り声に驚く。
柚稀が顔を上げ、倉科君をジトッと見る。
その目は無機質のように冷たくて、いつものような光が全く無かった。
そう呟きながら、柚稀がスマホを触り出したと思うと、「バンッ!!!」と大きな音が出るくらいの力でスマホを倉科君との間にある机に叩き付けるように置いた。
スマホを置いたまま反対を向いて歩き出す。
入口で止まると、振り向いて少し笑みを浮かべて…
そう言って、柚稀はいなくなった。
倉科君はそう言うと、少し焦ったような表情でメールが表示されている柚稀のスマホを見ていた…。
バスケから離れることで倉科君達から離れる。
つまり、自ら5軍に降りることを宣言した柚稀。
やっと、念願の人が落ちたけど……
何か腑に落ちない。
何であんなあっさりとバスケから離れたの?
もっと粘ると思ってたのに…
そんな疑問が頭に過ったが、その答えはスグに知ることになったのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!