私がトップになってから数週間経った頃。
私は雪奈と2人で黒板掃除をしていた。
月に一度の大掃除で場所決めのときに楽そうだったから黒板に雪奈と手を挙げたものの、実際にやってみると、かなりめんどくさい。
黒板を濡れ雑巾で拭いて、チョーク入れも拭いて、水を入れて捨ててまた拭く。
黒板消しは黒板消しクリーナーを使うから楽だと思った。だが、黒板消しクリーナーも黒板掃除担当だったから結局は汚すだけ後がダルい。
そうボヤいていると…
私は満面の笑みでそう言うと、持っていた黒板消しをその子に渡し、仕事を押し付けた。
することも無くなったし、と雪奈と教室を出て行こうとした時だった。
穂花が私達を止めた。
ほんっと、正論ばっかでウザすぎ…
心でそんな愚痴を漏らしながら、私は穂花を見る。
その一言に私の心臓がギュッと握り潰されたような気がした。
薄々気付いていた。
だけど、そのことを認めたくなかったのだ。
今の私の行動が沙月に似てることを……。
どうしてそこまで知ってるの…?
今、紅音が上げた名前の中には麗美がいない。
麗美は有咲にいじめられたってことを先に不登校になってた紅音が知るはずない。
そうなると誰かが教えたとしかいいようがない。
まさか、知っていた琉依と柚稀?
慌てて琉依達の方を向くが、目が合った琉依は違うと首を振り否定した。
あんな前から?
ずっと、黙ってたってわけ?つまり…
……私は下剋上の間ずっと、綾達の手の上で転がされていたってこと…?
そう考えが辿り着いた瞬間、私はその場に膝を付き泣き崩れた。
やり直せる?…笑わせないでよ。
ここまで来て、いつもの生活に戻れるわけない。
そして…
こんなことがバレて、この教室で学年が変わるまでやっていける気もしない。
そう私は声にならない声で叫んだ。
最後まで上手くいくと思った…。
なのに…!!
最後の最後で紅音や穂花、綾に……
物凄く悔しくて堪らない。
紅音のためにやったことで責められた。
私はフラリと立ち上がると、ヨタヨタと歩き、机に置いてあった鞄を手に取る。
こんな学校で私はやっていけない。
こんな学校で過ごせていけない。
もういいや。
全てをリセットして、静かに暮らそう。
そう心に決め……
…と、誰かに聞こえるかどうかも分からないような小さな声で呟くと、私は今日で最後となる2年4組の教室を後にしたのだった……。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!