慌ただしく走るスタッフ、レンズを念入りに磨く
カメラマン。照明が撮影セットを照らしている。
そう、ここはスタジオ。
私は急遽、遊佐くんの恋人役でペア下着の撮影をすることになった。
遊佐くんは下着姿の私にバスローブを乱暴に着せる。
近キョリの引き締まったカラダにすでにもう鼻血は
噴火寸前だ。
スケベ心を遮ったのはメイク道具を腰から下げた
オカッパ頭のおじさま……いやオネエさま?
慌ててメイクさんの話を遮る遊佐くん。
二人はかなり親しい仲のようだ。
遊佐くんはスタッフに呼ばれ、私は何もきけないままメイクさんと二人きりになった。
“初恋の子”
なぜか喉元がギュッと切なくなった。
そんな私の心は置き去りで、あっという間に撮影の時間がやってくる。
あれ、おかしいな。
間近で見るritoの身体は最高。なのに――。
恋人のように抱き合ってという指示で、肌と肌が触れ合う……。
普段ならスケベ心が飲めや歌えやお祭り騒ぎのはず。
静まりかえった心には“初恋の子”の存在だけがずっと残っている。
そんな私にカメラマンさんがレンズを向けた。
見よう見まねで言われるがままポーズを取った。
でも所詮は素人、なかなかOKがでない。
すると突然、遊佐くんはフラッシュから隠すように私を抱き込んだ。
小声で何か言った遊佐くんは怒ったように
舌打ちをする。
密着する遊佐くんのカラダから体温が伝わってきて、自然と鼓動が早くなる。
絶え間なく続くフラッシュの音に鼓動が頂点突破。
ついに、頭に血が上った私は鼻血を抑えることができなかった。
遊佐くんは呆れ顔で大きく息を吐いた。
と、そこへ急病のはずのモデルさんがスタジオへと駆け込んでくる。
それは最近引っ張りだこの有名モデル、イズミさん。
長い脚とメリハリのあるセクシーボディで人気を博している。
そう言って私とまるきり同じ下着を身に着けたイズミさんは遊佐くんの腕に絡みついた。
オーラも一種の衣装なんだろうか、まるで自分は
透明人間。
遊佐くんは私を突き放し、イズミさんの手を取る。
セット外へ追い出された私はそのまま立ち尽くした。
ライトが当たり、抱き合う二人は本物の恋人のよう。
イズミさんの腰に腕をまわす遊佐くんを見て、何故か胸が押しつぶされたように苦しくなる。
そんな楽しそうなメイクさんの言葉が私の胸にトドメを指す。
胸に感じるジクジクした痛みとモヤモヤ。
セット内で光り輝く遊佐くんを急に遠くに感じた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。