第14話

密着?! モデルの仕事と彼の初恋
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2019/01/04 09:00
遊佐
遊佐
絶対に鼻血だすんじゃねぇぞ!


慌ただしく走るスタッフ、レンズを念入りに磨く
カメラマン。照明が撮影セットを照らしている。

そう、ここはスタジオ。

私は急遽、遊佐くんの恋人役でペア下着の撮影をすることになった。
遊佐
遊佐
……つか、こんな貧相な身体
撮影ギリギリまで晒すんじゃねぇ

遊佐くんは下着姿の私にバスローブを乱暴に着せる。


近キョリの引き締まったカラダにすでにもう鼻血は
噴火寸前だ。
心美
心美
(生のritoリトが目の前に!)
スケベ心
スケベ心
わっしょーーーー
メイクさん
あらやだ、この子が代役の子?!

スケベ心を遮ったのはメイク道具を腰から下げた
オカッパ頭のおじさま……いやオネエさま?
メイクさん
新作下着のコンセプトは
“二人だけのヒミツ♡”よ。大丈夫?
この子ちょっと貧相じゃ――
遊佐
遊佐
は? そんなこと言ってないで
さっさと仕事して下さい
メイクさん
なぁに、またいつものドS?
そんなんじゃ例の初恋の子に嫌われちゃうわよ?
遊佐
遊佐
おいっ!

慌ててメイクさんの話を遮る遊佐くん。
二人はかなり親しい仲のようだ。
心美
心美
(初恋の子……?)

遊佐くんはスタッフに呼ばれ、私は何もきけないままメイクさんと二人きりになった。

心美
心美
あの……さっき、初恋の子って
メイクさん
そうなのよ。ずーっと好きなんだって、その子のこと。ああ見えて一途なのよ
心美
心美
そ、そうなんですか
メイクさん
あら、知らなかった? 
言ったことritoには内緒よ?
心美
心美
(遊佐くん、好きな人いたんだ……)

“初恋の子”

なぜか喉元がギュッと切なくなった。


そんな私の心は置き去りで、あっという間に撮影の時間がやってくる。
スケベ心
スケベ心
…………

あれ、おかしいな。
間近で見るritoの身体は最高。なのに――。
スケベ心
スケベ心
……
心美
心美
(どうしてだろう。絶好のスケベ
チャンスなのに、心が騒がない)

恋人のように抱き合ってという指示で、肌と肌が触れ合う……。
普段ならスケベ心が飲めや歌えやお祭り騒ぎのはず。



静まりかえった心には“初恋の子”の存在だけがずっと残っている。

そんな私にカメラマンさんがレンズを向けた。
カメラマン
心美ちゃんだっけ?
もうすこーし胸を前に強調してくれる?
心美
心美
え、こ、こんな感じですか?
カメラマン
うーん……もっとこう、セクシーに!
大胆に! 色っぽく!!
心美
心美
こ、こう?

見よう見まねで言われるがままポーズを取った。
でも所詮は素人、なかなかOKがでない。


すると突然、遊佐くんはフラッシュから隠すように私を抱き込んだ。
遊佐
遊佐
くっそ! しつこいんだよ

小声で何か言った遊佐くんは怒ったように
舌打ちをする。
心美
心美
(私がちゃんとできないからだ……
で、でもどうすれば)

密着する遊佐くんのカラダから体温が伝わってきて、自然と鼓動が早くなる。
絶え間なく続くフラッシュの音に鼓動が頂点突破。


ついに、頭に血が上った私は鼻血を抑えることができなかった。
心美
心美
遊佐くん、ごめんなさい鼻血が……

遊佐くんは呆れ顔で大きく息を吐いた。



と、そこへ急病のはずのモデルさんがスタジオへと駆け込んでくる。
それは最近引っ張りだこの有名モデル、イズミさん。

長い脚とメリハリのあるセクシーボディで人気を博している。
イズミ
イズミ
ごめん理人りひと~! 遅くなっちゃった!

そう言って私とまるきり同じ下着を身に着けたイズミさんは遊佐くんの腕に絡みついた。


オーラも一種の衣装なんだろうか、まるで自分は
透明人間。
遊佐
遊佐
お前、熱は?
イズミ
イズミ
そんなの秒で治しちゃった!
だって理人との撮影楽しみにしてたんだから。あれ、この子誰?
遊佐
遊佐
丁度いい。
こいつ、連れてくるんじゃなかったって後悔してたんだ。イズミ、お願い

遊佐くんは私を突き放し、イズミさんの手を取る。



セット外へ追い出された私はそのまま立ち尽くした。
ライトが当たり、抱き合う二人は本物の恋人のよう。

イズミさんの腰に腕をまわす遊佐くんを見て、何故か胸が押しつぶされたように苦しくなる。

心美
心美
(なにこれ……なんかやだ)
メイクさん
ちょっとアンタ聞いた?
ritoを本名で呼ぶのあの子だけよ。
もしかして……初恋の子!?

そんな楽しそうなメイクさんの言葉が私の胸にトドメを指す。

胸に感じるジクジクした痛みとモヤモヤ。



セット内で光り輝く遊佐くんを急に遠くに感じた。



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