第7話

瓶底メガネを外したら
5,846
2018/11/16 09:01


どうしてか遊佐くんから呼び出しをくらった私は
屋上の入り口で傘を握りしめていた。


昨日の遊佐くんはどうもおかしかった。

心美
心美
(もしかしてストーカー……じゃなくて尾行してたのがバレた? いや、そんな筈は……)


考えてもしょうがない。
ゆっくりとドアノブに手をかけ、キシむドアを押した。



そこには沈みかけた太陽と遊佐くんの姿。


いつもの猫背ではなく背筋の伸びた遊佐くんはスタイルがよくてモデルみたい。
心美
心美
遊佐くん……?
遊佐
遊佐
なんだ、遅かったな
心美
心美
(遊佐くん、なんだか雰囲気が……)
遊佐
遊佐
昨日は濡れずに帰ったか
心美
心美
あ、そうだこれ!!

遊佐くんに駆け寄り、傘を手渡す。
心美
心美
おかげさまで全然濡れなかったよ
傘、ありがとう!


遊佐くんがじっとこちらを見つめる。
瓶底メガネ越しでははっきりと表情は分からない。

心美
心美
(そんなに見られると、なんだか落ち着かない……)
遊佐
遊佐
君は、……本当に世話が焼けるな
心美
心美
そ、そうだね
最近は遊佐くんに助けられてばっかだな
遊佐
遊佐
そうだよな
……何かこの恩に報いる気はないか?
心美
心美
え?
遊佐
遊佐
助けた借りを返すってことだ

傘をその場に捨てた遊佐くんは
ただならぬオーラを纏いジリジリと私に詰め寄る。


私はまるで敵に見つかったくのいちのように
一歩、また一歩と後ずさる。



そしてトン、と背中がコンクリートにぶつかった。

逃げようとすると、遊佐くんの手が邪魔をする。
スケベ心
スケベ心
そいやっさ!!!
心美
心美
(え、何? 逃げ場がない! こんなキョリ、スケベ心が暴走しちゃう!)
遊佐
遊佐
最近、誰かにつけられているような気がするんだ
心美
心美
え、えっと、それは……
心美
心美
(か、顔が近い!や、やっぱり尾行バレてる?! 遊佐くんの顔が見れない! ああ、遊佐くんってすごくいい匂い……って違う!! ああもう、鼻血が!)
遊佐
遊佐
そいつ、女子みたいなんだ。でも俺はどう見てもキモいメガネキノコなのに……


遊佐くんが、悲しそうにうつむいた。

心美
心美
そ、そんなことないよ!!


私は完全にキャパオーバーだった。
遊佐
遊佐
え?
心美
心美
遊佐くんはキモくなんかないよ!
だってフェロモンダダ漏れなんだもん!
心美
心美
むしろもっと気をつけた方がいいと思うんだ。いい匂いするし、色っぽいし、スケベストショットMVPだし!
心美
心美
それにこんな簡単に女子に近づいちゃダメだよ!変態スケベ女子に襲われちゃうよ?!もっと自分の色気を自覚して!!


口をついて出てくる言葉は止まらなかった。

スケベ心
スケベ心
変態スケベ女子=自分やないかい!!

スケベ心がツッコんでくるがそんなの気にしない。

遊佐
遊佐
……ぷっ!! アハハ!!!

急に笑いだした遊佐くんは
するりと瓶底メガネを外した。
心美
心美
(え……?!まつげ長っ!  遊佐くんって、こんな綺麗な顔してたんだ。わっ、髪掻き上げた! なにその完璧なお色気仕草!!)
心美
心美
あれ? この顔、どっかで……
遊佐
遊佐
あ~、ほんとお前からかうの楽しいわ
すけべぇさん?

端整な顔が挑発的な笑みを浮かべる。

それは紛れもなく、あの日私をパンツ泥棒呼ばわりしてきたドS男。


心美
心美
あぁぁぁぁあ!!!あの時のドS!!
ピンクのボクサーパっん―――


私はいとも簡単にドSな遊佐くんによって口を塞がれてしまった。


唐突な彼の唇で。




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